奈良県医師会 山下圭造
血栓とは血管内にできた血の塊で、ケガをしたときに傷口にできる瘡蓋(かさぶた)のようなものです。血栓が突然、血管に詰まって血液が流れなくなり、その先の臓器・組織に障害を起こす病気を血栓症(血栓性梗塞)と呼びます。血栓のできる血管により様々な病気を発症しますが、なかでも脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞などは大変重篤な病気で、重い後遺症が残ったり、突然死にいたることもあります。血栓症は、しばしば元気な人に突然発症し、前もって予測することが難しいために、元々の原因である血栓が出来ないように予防することが重要とされています。
血栓は、そもそもは出血を止めるために血液が固まる「止血」という体の防御反応であり、通常では血管内は血栓が出来にくい状態に保たれています。しかし、「血管」「血液」「血流」に異常が生じると、血管内に血栓が出来やすくなり血栓症を引き起こします。
血栓が出来やすいのは、主に以下の状態と言われています。
「血管」〜ボロボロ血管
正常の血管は、その内面を内膜という一層の「サラサラシート」に覆われています。このシートはなかなかの優れ物で、血管の内側を滑らかに保つだけでなく、自ら血流を良好に保つ調節機能を持っています。しかし、加齢や喫煙、過度のストレスやアルコール、生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)により傷つきやすくなり、破れたり壁から浮き上がったりしてボロボロ状態となって、その機能を十分に発揮できなくなり血栓を生じます。
「血液」〜ドロドロ血液
血栓症を予防するためには、水分を十分に補給することが大切です。熱中症などの脱水状態では血液は濃縮され、また脂質異常症や糖尿病、「ピル」などの一部の薬剤の服用などでも血液はドロドロになり、血栓ができやすくなります。
「血流」〜ノロノロ血流
エコノミークラス症候群として有名になりましたが、長時間のデスクワークや乗り物移動、さらに被災地での車中泊などでは両足の静脈の血流は滞り、ノロノロ状態になります。血液は流れが止まると固まって血栓となります。時々足首を曲げ伸ばししたり、両脚のマッサージをしたり、下肢を積極的に動かして血液を滞らせないように注意しましょう。また心房細動という不整脈の人では、心臓内で血流停滞が起こり、血栓が出来やすくなることが知られています。
水道管を想像して下さい。錆び付いた管の中を汚れた水がゆっくり流れる時と、新品の管をきれいな水が早く流れる時で、どちらがつまり易いかは明らかです。
特定健診の問診内容や検査項目は、前に挙げた血栓を作りやすくなるリスクを全てチェックできるようになっています。定期的に健康診断を受け、日常の生活習慣改善に努めましょう。
新型コロナウイルス感染症拡大防止による外出自粛が続き、ストレスが多いうえに運動不足や過食のため体重が増えている方が多いようです。夏は水分不足状態にもなりやすく、血栓ができるリスクが高まります。十分な注意と対策をお願いします。