県医師会 井上 孝文
のどが渇いた時の飲み物の味は格別ですね! 皆さんは、のどが渇いた時に何を飲まれますか? 昨今は自動販売機やコンビニがいたるところにあり、ペットボトルの飲料が広く普及していますので、いつでもどこでも好きな飲み物を手にすることができます。便利な世の中です。
さて、皆さんは「ペットボトル症候群」という病名を聞いたことはありますか? ペットボトル症候群とは、ジュースや甘い炭酸飲料、スポーツドリンクなど、糖を含む清涼飲料水(ソフトドリンク)を多く摂取することで発症する病気で、正式には「ソフトドリンクケトーシス」と呼ばれています。ソフトドリンクには予想以上に糖が含まれていることが多く、コーラであれば500mlのペットボトル1本で角砂糖(1個4gとして)14個分、スポーツドリンク500mlでも角砂糖6~8個分程度の糖が含まれています。ソフトドリンクを飲むということは、同時に大量の糖を摂っているということになるわけです。
のどが渇いた際にソフトドリンクを飲むと、飲料中の糖によって血糖値(血液中の糖の濃度)が上がります。血糖値が上がるとのどが渇きますから、また何か飲みたくなります。のどを潤すのに水やお茶を飲めば問題ないのですが、このような状況で次から次へとソフトドリンクを飲むと、さらに血糖値が高くなってのどが渇くという悪循環に陥ってしまいます。通常、血糖値が高い時には、膵臓からインスリンというホルモンが適宜分泌され、糖の利用が促されて血糖値を下げる仕組みになっていますが、高血糖の状態が長く続くとインスリンの分泌や働きが悪くなることがあり、その場合には糖がエネルギー源としてうまく利用できなくなるため、血糖値が下がらなくなってしまいます。糖の利用ができなくなると、それに代わるエネルギー源としてタンパク質や脂肪が分解され、エネルギーとして利用されるようになります。脂肪が分解されたときに「ケトン体」という物質ができますが、これが増えると血液が酸性に傾き、これらのことが原因となって、ペットボトル症候群の諸症状が現れます。具体的には、のどが渇く、尿量が増える、だるい、疲れやすい、イライラする、吐き気がするなどの症状がよくみられます。重症になると意識がもうろうとして、時には命に関わることもあるので注意が必要です。
「ペットボトル症候群」という病名を聞いても、あまり重症感が伝わってこないかもしれませんが、実態は糖尿病そのもので、しかも急性の代謝異常を起こしている状態です。糖尿病と診断を受けている方はもちろんのこと、糖尿病の可能性を指摘されている方やメタボリック症候群の方も含めて発症リスクが高いと考えられます。実際のところ、健康にあまり関心のない若年層の肥満男性で、日常的にジュースやコーラを大量に飲むような人が罹りやすいと言われています。ペットボトル症候群を防ぐため、あるいは生活習慣病の予防のためにも、日常的な飲み物は水やお茶にして、ソフトドリンクを飲むのであれば過剰にならないように気をつけたいものです。