奈良県医師会 溝上晴久
「ピロリ菌」という言葉を、一度は聞いた事があると思います。正式には、ヘリコバクター・ピロリという名前で、人間の胃の中に生息している体長約0.004mmの小さな細菌です。生まれたばかりの赤ちゃんの胃の中にはいません。感染時期は、まだ免疫力が弱い5歳頃までの乳幼児期で、成人になってからの感染はほとんどありません。乳幼児期の不衛生な飲み水(井戸水など)、感染している家族からの食事介助(離乳食を噛んであげる、口移しで食べさせる、箸の共用など)等が感染原因と考えらえています。感染率は、年代が上がるほど高く50歳代で5割前後、60歳代では6割前後と言われています。最近は上下水道が改善し、乳幼児期の食習慣も変わり、若い世代での感染率は低くなっています。
ピロリ菌は胃の中にしかいませんが、実は胃の病気以外にも「特発性血小板減少性紫斑病」「慢性蕁麻疹」「鉄欠乏性貧血」等とも関連があります。
今回は、一番関係が深い胃の病気について説明します。
ピロリ菌が原因となる胃疾患としては、「胃がん」「胃MALTリンパ腫」「胃潰瘍」「萎縮性胃炎」などがあります。
乳幼児期にピロリ菌に感染すると、胃粘膜が徐々に破壊され、胃粘膜には痛覚がないため、自覚症状がほとんどないまま胃炎となります。そこに塩分、アルコール、発がん性物質などが加わる事により、大人になり胃がんや胃潰瘍が発生します。
日本の胃がん患者さんの約98%はピロリ菌と関係しており、ピロリ菌感染歴がない人の胃がんは大変少ないと言われています。
ピロリ菌の検査方法はいくつかあります。胃内視鏡検査をして胃粘膜を採取して調べる方法、血液検査、便検査、尿検査、呼気試験などがあります。ただし、保険を使って調べるには、最初に胃内視鏡検査をして、胃がんがない事および胃炎の有無などを確認する必要があります。胃内視鏡検査を受けずにピロリ菌の有無を調べる事は保険適応されません。
検査でピロリ菌を認めた場合は、胃酸の分泌を抑える薬と抗菌剤2種類を1週間内服する事で、9割前後の方が除菌できます。また、最初の除菌で不成功の場合は、抗菌剤の組み合わせを変える事により、再除菌する方法があります。この場合でも、8~9割の方が除菌できます。一度除菌が成功すると、その後の再感染はないと言われています。そして、その後は胃がん、胃潰瘍の発生頻度は、著明に減少する事が分かっています。ただし高齢で除菌を行った場合は、その効果は少ない事も報告されています。そのため、ピロリ菌がいる場合は、少しでも早く除菌する事が大事です。また、除菌が成功しても安心せず、胃がん検診は定期的に受ける必要があります。
40歳を超えたら胃部症状がなくても、ぜひ一度は、胃内視鏡検査をする事をお勧めします。