C型肝炎診療の現状と問題点

奈良県立五條病院 内科 部長 松本昌美

 

本邦では,肝臓病による死亡は毎年4万人以上あり,その内約3万人が肝細胞癌(HCC),残りが肝硬変,慢性肝炎で死亡していると推定されている.肝硬変,HCC患者の約80%はC型肝炎ウイルス(HCV)感染者であり,約200万人のHCV感染者がいるとされている.これらHCV感染者において,病態の進行を食い止め,HCCの発生を予防することが重要であり,これまで各種の抗ウイルス療法,肝庇護療法が行われてきた.

HCVに対する抗ウイルス療法としては,インターフェロン(IFN)療法が近年目覚しく発展した.200112月にIFN・リバビリン併用療法が保険適用となり,20022月にはIFN投与期間の制限撤廃により,Genotype 1型,高ウイルス量のいわゆる難治症例においても,治療しやすくなった. 200312月にはPEG-IFNα2a単独療法が,さらには200412月にPEG-IFNα2b・リバビリン併用療法が1型,高ウイルス量症例において保険適用となり,2004年のC型肝炎治療標準化ガイドラインも改定を余儀なくされている.

 このような状況において,われわれの一般病院においても,症例に応じて保険診療下で各種の治療法を選択できるようになった.今回の講演においては,C型肝炎の診断,治療を概説するとともに,特にIFN治療の成績を文献的に考察し,最近の当院におけるIFN・リバビリン併用療法,PEG-IFNα2a単独療法の成績,さらに,HCCの診断,治療などについても供覧する.

当院では最近3年間に, C型慢性肝炎55例(128例,227例,全例高ウイルス量)に対してIFN 療法を行った.IFN・リバビリン併用療法,コンセンサスIFN療法のEVRearly virological response)はそれぞれ81%80%で,SVR sustained virological response)は48%1型高ウイルス量では17%),20%であった.また,PEG-IFNα2a単独療法では,EVR82%であり,2型の高ウイルス量症例において, EVR 100%,投与3048週のHCV陰性化率83%と有効である場合が多く,まず試みるべき治療と考えられた.1型の高ウイルス量症例に対するPEG-IFNα2a単独療法は,ウイルス排除のためIFN・リバビリン併用療法後のIFN継続治療,肝炎の進展予防,発癌予防が目的となることが考えられた.経過中,2040%の症例が,倦怠感やうつ状態など副作用のため投与を中止した. 以上のように,IFN療法の発展により一般病院においても治療が容易になってきた.今後,1型,高ウイルス量の治療抵抗例に対しては,SVRが約50%といわれているPEG-IFN・リバビリン併用療法を考慮すべきである.

 次に,C型慢性肝炎患者からの発癌は,年率1.7%とされており,C型肝炎診療においては,合併症,特にHCCの早期診断が重要となる.発癌率は肝の線維化の程度によって大きく異なり,F1(軽度)では年率0.5%であるが,F4(肝硬変)では7%と高率になる.また,高齢者,男性,アルコール多飲者は発癌リスクがさらに高くなるので注意が必要である.早期診断のためには,12ヵ月毎にAFP(高値ならAFP-L3分画),PIVKA-Uを測定し,34ヵ月毎に腹部超音波検査,6ヵ月毎に腹部造影CT検査を行う必要がある.さらに精査として造影MRI,血管造影検査を行い,症例によっては針生検が必要になることもある.当院では,汎用機種の超音波装置にPulsatile flow detecionを付加し,造影下に診断および治療後早期の効果判定を行っている.

HCCの治療としては,第7回日本肝臓学会大会のコンセンサスミーティングで推奨された肝癌治療のアルゴリズムに従い行っている.1)肝切除:5p以下の単発で肝予備能の良い症例の治療予後は良好である.2p以下で単発の初発肝癌では,長期予後的には,内科的局所治療とほぼ同等の成績である.2)内科的局所治療:径3p以下で,病変数が3個以内であれば,侵襲の少ない以下の治療が選択されることが多い.@経皮的エタノール局注療法(PEIT),A経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT),Bラジオ波焼灼療法(RFA)があり,RFA20044月の保険適用以降,当院においても主流になってきている.3)経カテーテル肝動脈塞栓術(TAE):主に局所治療の適応外である進行肝癌に対し,減腫瘍目的に施行される.全肝に広がるような多発癌にも適応がある.4)肝動注化学療法:肝予備能は保たれているものの,局所治療やTAEによる治療では効果が上がらないと判断された門脈腫瘍塞栓合併例や肝内多発例,肝外転移合併例など肝癌の終末期といえる高度進行肝癌に対して行われる.主にリザーバー留置下にCDDP5-FU療法を行うが,最近では,5-FUIFN療法で大きな効果が得られるようになってきており,当院においても腫瘍消失例を数例経験している.5)肝移植:脳死肝移植の適応は,最大径5p以下なら単発,最大径3p以下なら3個までという条件になっている.本邦では生体肝移植が積極的に行われるようになっており,肝外転移がなく,画像上脈管侵襲のないことが共通した条件になっている.

 HCCの予後向上のためには,根治治療後の画像検査ならびに腫瘍マーカーによる再発の早期発見,早期治療が重要であることを認識して,診療に当たる必要がある.また,HCCの再発予防にIFN治療を行うこともあり,さらに肝不全,消化管出血などの合併症対策のためには,病診連携下の厳重な管理が重要である.