糖尿病の血管障害

 糖尿病は網膜症・腎症・神経障害という特有の三大合併症を発生させるが、これらはいわゆる細小血管障害である。しかし、糖尿病は脳・心臓・大腿などの大血管障害、動脈硬化性疾患リスクを2〜4倍増大させる。この大血管障害はメタボリックシンドロームの関連で注目を集めている。軽度の高血糖、高血圧、高脂血症、肥満などの代謝リスクが重複すると冠動脈疾患も糖尿病の発症が何倍にも増える。冠動脈疾患や脳血管障害は糖尿病に伴って経験する症例も多いが、足潰瘍・切断に至る末梢血管障害も経験することがある。神経障害に血管障害、感染を伴って潰瘍・壊疽に至る例もある。

 2005年に出たアメリカ循環器学会のがいどらいんでは、下肢末梢動脈疾患(PAD)のハイリスク者として、50歳以下では糖尿病と他の動脈硬化症の危険因子を有する者、50〜69歳では喫煙あるいは糖尿病の病歴、70歳いじょうをあげており、運動時の跛行症状・下肢脈拍の触知低下、既知の動脈硬化症疾患を有するものがスクリーニングの対象となる。下肢PADを発症する危険因子として大きいのは、2〜4倍に跳ね上がる喫煙・糖尿病、そして高血圧・高コレステロール血症、高ホモシステイン血症、CRP上昇である。とウン町病では、神経障害のためAVシャントが起こり末梢の虚血が起こりやすく、中膜の石灰化のため、ABIが指標となりにくいなどの特徴がある。一般的なPADの検査法として、PWVとABIの同時測定が行われている。ABIは足背動脈と上腕動脈の収縮血圧の比を示し、0,91〜1,30が正常範囲である。運動負荷後のABIも診断に有用である。

 前記のガイドラインでは、PADの診断確定後、トレッドミルを利用した監視下での運動プログラムが歩行能を150%アップするとして推奨している。また、薬物治療はシロスタゾールを第一選択薬として勧めている。そのエビデンスとなるシロスタゾールを使用した8つの臨床試験のメタアナリシスでは、シロスタゾールにより最大歩行距離、無痛歩行距離に対する有意な効果が得られている。わが国では、Fountaine分類のT・U度に対する内服治療薬としてさまざまな抗血小板薬、プロスタグランディン製剤がもちいられているが、内服薬としてエビデンスを有するシロスタゾールは有用と考える。血管拡張と血管内皮機能の改善にシロシタゾールが寄与していることが有効に作用しているようだ。

 安静時疼痛、潰瘍・壊疽を呈するFountain分類V・W度の症例では、ステントを使用した血管形成術やバイパス手術が考慮される。しかし、腸骨・骨盤領域の動脈に対する適応は明らかであるが、さらに末梢の動脈の血行再建に関してはエビデンスが十分とは言えない。さいきん、MRAによる末梢動脈の詳細な評価が可能となり、大きなリスクを抱えた上に足潰瘍・安静時疼痛をきたした症例に末梢動脈のバイパス手術成功した3症例を紹介した。いずれもプロスタグランディン注射を1ヶ月間にわたって投与する保存的治療では改善が見られず、近々に足切断も考慮された。旭川医科大学の心臓血管外科に相談した結果、バイパス手術が施行され、見事救足された。

 糖尿病の血管障害は予防が肝要であり、血糖の厳格なコントロール、血圧・脂質管理、禁煙、肥満防止、適度の運動、適切な薬物治療と共に、定期的なフットケアが不可欠と考える。