胃粘膜傷害の原因としてはヘリコバクター・ピロリがもっとも重要であるが、非ステロイド性抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)の存在もわすれてはならない。特に近年、社会の高齢化に伴うリウマチ性疾患、変形性関節症などの増加によりNSAIDs起因性胃粘膜傷害の重要性はますます高まりつつある。したがって、NSAIDs起因性胃粘膜傷害の実態を把握し、適切な対策を立てることは消化器内科における非常に重要なテーマである。そこで、今回われわれはNSAIDsを4週間以上継続服用中の患者261例を対象とし、内視鏡を用いてNSAIDs起因性胃粘膜傷害の疫学調査を行った。その結果、NSAIDs長期服用患者の63%に胃粘膜傷害が認められ、NSAIDs起因性胃粘膜傷害の頻度が非常に高いことが再確認された。注目すべきは、自覚症状を認めない患者においても59%に胃粘膜傷害を認めており、症状の有無は必ずしもNSAIDs起因性胃粘膜傷害の予測因子とならない。そこで、NSAIDs長期服用患者における胃粘膜傷害発生のリスクファクターを明らかとする目的で多重ロジスティック回帰による解析を行った。その結果、1)ジクロフェナックは他のNSAIDsより有意に胃粘膜傷害発生のリスクを増加させる 2)ヘリコバクター・ピロリはNSAIDs長期服用患者における胃粘膜傷害の発生率を上げるのではなく、重篤かに関与している可能性が示唆された。
次に、NSAIDs潰瘍の治療法としては、消化性潰瘍治療のガイドラインではまず第一にNSAIDsを中止することが推奨されている。しかしながら、慢性関節リウマチや変形性関節症患者においてNSAIDsを中止することは事実上不可能である。このようなNSAIDsを中止できない症例に対して、潰瘍治療のガイドラインはプロスタグランディン製剤あるいはプロトンポンプインヒビターの投与を推奨している。しかし、プロスタグランディン製剤は妊娠可能な女性に対して投与できず、副作用(主に下痢)の頻度が高いという欠点を持っている。また、NSAIDs潰瘍に対するプロトンポンプインヒビターの投与は保健適応となっていない。さらに、潰瘍治療のガイドラインは欧米での成績のみが基礎となっているため、人種の異なる日本で全く同じ成績となる保障はない。そこでわれわれは、欧米人に比べて胃酸分泌の低い日本人におけるNSAIDs起因性胃粘膜傷害(びらん・出血)に対する治療法を保健適応下で検討するために、H2ブロッカーであるファモチジン(20mg/日:保健適応用量)と粘膜防御系製剤レバミピド(300mg/日:保健適応用量)のNSAIDs胃粘膜傷害に対する治療効果の比較(FORCE試験)を行った。その対象は先のNSAIDs長期服用患者261例に対して内視鏡的スクリーニングを行った際に胃粘膜傷害(びらん・出血)を認めた例である。これら胃びらん・出血例を、ヘリコバクター・ピロリ抗体の有無とLanzaスコアの重症度を勘案して動的割府した。試験薬はNSAIDs継続投与下4週間投与し、投与前後におけるLanzaスコアを比較した。また、本試験は前向き、遮蔽テストであり、遮蔽性を保障するためにLanzaスコアの判定は内視鏡実施医以外の第三者が行った。その結果、ファモチジン投与例(57例)におけるLanzaスコアは2.4→1.3と有意に(p<0.001)低下したが、レバミピド投与例(55例)におけるLanzaスコアは2.4→2.2であり、有意な変化を認めなかった。また、ファモチジン投与例のLanzaスコア変化量(1.2)はレバピミド投与例のLanzaスコア変化量(0.2)に比して有意に(p=0.002)高かった。さらに、ファモチジン投与例における胃粘膜傷害の治癒率は45.6%であり、レバミピド投与例の治癒率18.2%に比して有意に(p<0.01)高かった。以上から、NSAIDs長期服用患者の胃粘膜傷害(出血・びらん)に対し、ファモチジンは明らかな治療効果を有しており、その作用はレバミピドに比して有意に優れていると考える。