尿路感染症(UTI)とは尿路に上行性に微生物(多くが細菌)が進入、定着、増殖し、尿路粘膜さらに腎実質に非特異的炎症をおこしている状態であり、非特異性炎症とは感染菌のの種類に関係なく同様の病像、病態を呈するものを指す。尿路感染症の分類としては@臨床経過による分類(急性、慢性)A基礎疾患の有無による分類(単純性、複雑性)B感染部位による分類(尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎)がある。また、泌尿器科が扱う感染症として副性器感染症(前立腺炎、精巣上体炎)がある。尿路感染症の診断では、症状・身体所見・尿検査所見が重要である。膿尿、細菌尿の定量的判定法としては、@膿尿の場合:沈渣法、計算盤、全自動尿中有形成分分析法があり、A細菌尿の場合:定量培養、ディップスライド法があり、各々判定についてはUTI薬効評価基準により定められている。

 単純性尿路感染症の特徴は尿路に基礎疾患を有さず、急性単純性膀胱炎が大多数を占める。症状は排尿痛、頻尿、尿意切迫感、下腹部痛を認め、腎盂腎炎にいたっては、発熱、腎部痛、脊椎肋骨角圧痛がみられる。一方、複雑性尿路感染症の特徴は、尿路に何らかの基礎疾患を有し、症状としては基礎疾患による症候を認め、さらに単純性尿路感染症と同様の症状および全身症候を伴う。これらの基礎疾患としては、尿路結石、前立腺肥大症、カテーテル留置などが多い。

 尿路感染症の性別、年齢別発生頻度と基礎疾患をみてみると生後より10歳では膀胱尿管逆流症(VUR)、水腎症を伴った奇形による複雑性尿路感染症が多く、10代後半〜30歳では性活動が盛んになることから女性の単純性尿路感染症が増え、50代からは糖尿病、前立腺肥大症、前立腺癌を基礎疾患とする複雑性尿路感染症が増加する。

 感染症に対する抗菌化学療法においては、宿主、微生物、抗菌薬という3要素の力関係によって影響され、1990年以降非常に多くの抗菌剤が開発されたが耐性化も進み、細菌とのいたちごっこが続いている現状である。尿路感染症の原因菌を外来、入院別にみると、外来における単純性ではほとんどが大腸菌であるが、外来でも複雑性で更にカテーテル留置例では大腸菌が減り、プロテウス属、腸球菌、緑膿菌など多様化してくる。入院では、複雑性であってもカテーテル非留置例では大腸菌が少しはみられるが、複雑性でカテーテル留置例では大腸菌はほとんどみられず、腸球菌、緑膿菌が増加する傾向にある。単純性、複雑性別に原因菌をみると、単純性では約80%が大腸菌であるのに対し、複雑性では大腸菌、緑膿菌、エンテロコッカスフェカーリスなどの原因菌も増加、多様化してくる。

 単純性尿路感染症の治療は、急性単純性膀胱炎の場合は経口にてニューキノロン系薬、セフェム薬などを3日〜7日間投与する。急性単純性腎盂腎炎は青壮年期の女性に多く、原因菌の80〜90%は大腸菌である。菌血症合併は36%にみられ、発熱、腰痛、末梢白血球増多、CRP陽性、血沈亢進など全身症状を伴い、治療は軽傷であれば経口でも有効なケースはあるが、全身症状を呈しているので基本的には第一、第二セフェム系注射剤を中心にできれば入院させて治療する。

 複雑性尿路感染症の治療はまず基礎疾患の治療を優先させることが第一であり、複雑性膀胱炎や複雑性腎盂腎炎で38℃未満の場合はニューキノロン系薬、セフェム系薬などを7〜14日間東予市、複雑性腎盂腎炎で38℃以上の場合は注射剤を初期に3〜5日間、その後ニューキノロン系薬、セフェム系薬などを10日間投与する。

 カテーテル留置の問題点としては細菌によるバイオフィルム形成であり、対策としては出来るだけ長期間留置しないようにすることと、清潔操作が重要である。性感染症(STD)の代表的な原因微生物として、細菌ではTreponema pallidum による梅毒、Neisseria gonorroeae による淋菌性尿道炎、マイコプラズマでは Mycoplasama genitalium による非淋菌性尿道炎およびクラミジアでは Clamydia tracomatis による非淋菌性尿道炎がある。さらにウイルスによるものでは、Herpes simplex virus による性器ヘルペス、Human papilloma virus による尖圭コンジローマおよびHIVにるAIDSがある。男性STDの疾患別頻度および男性尿道炎の起炎菌をみてみると、疾患別頻度では非淋菌性尿道炎が約50%を占めており、次いで淋菌性尿道炎が薬40%である。男性尿道炎の起炎菌としては、マイコプラズマ、ウレアプラズマなどの非淋菌性・非クラミジアが約40%を占めており、次いで淋菌が30%弱、クラミジアが30%弱である。非淋菌性尿道炎(NGU)の約半数がクラミジアであり、ウレアプラズマに関しては病原性については疑問視されている。淋菌性尿道炎とクラミジア性尿道炎の違いは、淋菌性尿道炎は潜伏期間が3〜7日と短く、発症は急激で排尿痛は強く、分泌物は膿性であることに対してクラミジア性尿道炎は潜伏期間が1〜3週間と長く、発症は比較的緩徐で排尿痛は軽く、分泌物は漿液性ないし粘液性である。男性尿道炎の診断手順としては、まず問診をしっかり行いどこで感染したかを確認する。次いで理学的所見、尿道分泌物の塗抹検鏡を行い、確定診断として初尿の淋菌・クラミジア検査(PCR法)を行う。淋菌性尿道炎の治療としてはニューキノロン耐性の淋菌が非常に増加していることからトロビシン、ケニセフ、ノイセフ、ロセフィンなどの注射剤を単回投与し、クラミジアとの混合感染ではまず淋菌を除菌してからクラミジアを除菌する。クラミジア性尿道炎の治療としてはジロマック単回投与やくらりす、クラリシッド、ミノマイシン、クラビットなどを7日間投与する。

 性感染症の同行は1992年はAIDSに対する意識が高まり、性感染症全体が減少し、男性で淋菌感染症が激減した。しかし、エイズに対する不安や関心が薄れるにつれて、1996年から性器クラミジア、淋菌感染症とともに再び増加したもの2002年以降、減少傾向がみられた。

 以上、尿路感染症(UTI)と性感染症(STD)の診断と治療について最近のガイドラインを中心に述べた。