平成17年度の総務省消防庁からの報告によると、本邦では年間約450万件の救急出場があり、奈良県ではその約90分の1にあたる年間約5万4000件の救急出場事例が発生している。その中でも内科疾患による突然死は年間約10万件に達し、社会的にも大きな問題点として残されている。しかし内科疾患による突然死からの救命は、市民への心肺蘇生術の啓蒙などの活動にもかかわらず、未だその救命率は約4%程度に留まっている。
最近の報告によると、市中で発症する突然の心停止(心室細動)の原因として、急性冠症候群が最多の約75%を、約8%を心筋症、約2%をBrugada 症候群、QT延長症候群などの一次生不整脈が占めている。特に、急性心筋梗塞を含む急性冠症候群は従来救命の困難な疾患であったが、その治療成績は1980年代後半頃から積極的に導入されるようになった緊急冠動脈形成術によって明らかに改善し、院内死亡率は1970年代の約30%から、最近では8%程度へと著名に低下してきている。しかしながら、高齢心筋梗塞患者の治療成績をみてみると、院内および長期死亡率は最近の集中治療の発達にも関わらず、いまだ10%台に留まっており、十分な治療成績が達成されていない。奈良医大第一内科の検討では、CCUに入院する急性心疾患患者の約50%が、クレアチニンクリアランズが60ml/min 以下の慢性腎機能障害を合併していることが明らかになっている。今後、急性心筋梗塞を含む重症心疾患患者の治療においては、救急現場に於ける心肺蘇生のさらなる啓蒙、急性期病院での初期治療に加えて、腎機能障害の合併を前提とした包括的な入院後治療のアプローチが必要である。