近年、骨強度や易骨折性を骨密度だけでは説明できないことがわかってきた。200年にNIHコンセンサス会議で、骨粗鬆症は「骨強度が低下し、骨折のリスクが高くなったことを特徴とする骨格障害」と定義され、骨強度は骨密度と骨質の二つの要因からなるとされた。骨密度は骨強度の約70%しか説明できず、残りの約30%を骨質が説明するとされる。骨質とは、骨密度以外の骨強度に関与する要因の総称で、構造、代謝回転、ダメージ(微少骨折)の蓄積、石灰化などが挙げられるが、実際の臨床の場でこれらを評価することは難しく、臨床上の骨折危険因子が探求された。わが国におけるエビデンスの蓄積により、低骨密度以外に既存脆弱性骨折、骨吸収亢進、年齢がそれぞれ独立した骨折危険因子であることが明らかになってきた。このような世界的な流れを受けて2006年、わが国においても日本骨粗鬆症学会を中心に「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」が策定され、下記のような「脆弱性骨折予防のための薬物治療開始基準」が設けられた。

   T 脆弱性既存骨折がない場合
      1)腰椎、大腿骨、橈骨または中手骨BMDがYAM 70%未満
      2)YAM 70% 以上 80% 未満の閉経後女性50歳以上の男性で、過度のアルコール摂取(1日2単位以上)、現在の喫煙、大腿骨頸       部骨折の家族歴のいずれかの一つを有する場合
   U 脆弱性既存骨折がある場合(男女とも50歳以上)

 また、各薬剤について、国内および海外のエビデンスに基づき、有害事象も含めて総合的に評価され、推奨のグレードが示された。アレンドロネート、リセドロネートラロキシフェンの3剤が椎体骨折に対するグレードAで総合評価グレードAとされた。非椎体骨折に対しては、アレンドロネートとリセドロネートがグレードAとされた。併用療法についてはエビデンスが十分でない。ただし、本ガイドラインの目的は、一定の基準を作り医師の診療を拘束することではなく、エビデンスを整理し、骨粗鬆症診療の一助とすることであるとされ、実際の治療にあたっては、医師が薬剤個々の特徴をよく理解し、患者一人ひとりに最適な治療法を選択することが必要である。
 今回薬物治療開始基準に盛り込まれなかった骨折危険因子のうち、ステロイド使用については、2004年に日本骨代謝学会により「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン」が設けられている。骨代謝マーカーについては、これまでにも日本骨粗鬆学会からガイドラインが示されてきたが、今回、治療方針決定の補助としての使用や骨代謝マーカーを用いた治療効果判定の指針がガイドライン中に示された。