慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease, CKD)とは、軽度の検尿異常から透析中の患者、腎移植を受けた患者mでを広く包含する概念です。CKDのステージ分類は基本的にはGFRでなされており、原疾患によらず、全ての腎臓病患者を共通の基盤で病期分類することができます。GFRも年齢、性別、血清クレアチニン値、人種で推算する式が考案され(eGFR)、今後、クレアチニン測定を依頼したら臨床検査部からeGFRが報告されることが期待されています。CKDステージ3に相当する eGFR<60mL/min/1.73u の人口は、日本で1920万人に及ぶとの試算もあり、CKDはCommonです。また、CKDは透析予備軍であり、また心血管系疾患のハイリスク群でもあるあため、CKDはHarmful です。しかし早期から対策が可能であるから、CKDはTreatableであります。このような背景を受けて、日本腎臓学会などは、CKDについての啓蒙活動を広く展開しています。

 さて、CKDにおける脂質管理には大きく二つの意義が期待されています。第一は、心血管イベントリスクの抑制です。スタチンによる心血管イベントリスクの抑制については、CKDの早期ほどその有用性が高いことが明らかになってきました。透析治療期に入ってからではイベント予防効果が弱いのです。これは、CKD早期からの脂質管理の重要性を意味します。

 第二の意義は、脂質管理により腎障害の進展抑制効果がある程度期待できることです。スタチン投与で尿蛋白が減少するとの小規模な報告はこれまでもありました。最近報告された約4万人のメタアナリシスでは、尿中アルブミン/クレアチニン比、尿蛋白/クレアチニン比がスタチン投与で低下しているとの解析結果が示されています。同じメタアナリシスによると、eGFRがスタチン投与群で軽度ながら有意に高いとの解析も報告されています。これらから、腎臓病の特効薬ではないものの、スタチンによる脂質管理はCKD患者に好ましい作用を有することが示唆されます。

 日本腎臓学会の「CKD治療ガイド」では、CKD患者の脂質管理目標値として、LDL-C<120mg/dL (できれば<100mg/dL)が示されました。GFRが低下するとCKDでは、LDLの上昇よりも、VLDL、IDLなどのTG-rich リポ蛋白の上昇が顕著ですので、これらの総和として Non-HDL-C (総コレステロール マイナス HDL-C)を指標にする方法も考えられ、米国腎臓財団のガイドラインでは、LDL-C<100 mg/dL と並んで Non-HDL-C<130 mg/dL が挙げられています。

 GFRにもよりますが、CKDでフィブラートの使用は慎重であるべきで、進んだステージであれば禁忌です。スタチンは肝排泄であり、定期的な肝機能検査とCKをモニターしつつ、CKDでも通常通り使用できます。ただし、シクロスポリンを使用中の患者さんでは併用は避けるべきで、また高齢者や多剤使用中の患者さんでは、薬物相互作用による副作用リスク上昇に注意が必要で、CYP3A4による代謝を受けるかどうかは、選択のポイントになる場合があります。