平成17年12月3日
「悪性リンパ腫の診断と治療」
天理よろづ相談所病院   血液内科 副部長   林昌孝

悪性リンパ腫はリンパ球の「がん」です。年間発症10万人対数人と少ない疾患ですが、高齢化社会のためか近年増加傾向にあります。一般診療でごらんになる機会は少ないと思いますが、あらゆる部位から発生しますので、リンパ節腫大、腫瘤性・結節性病変、原因不明の発熱・LDH上昇・CRP上昇のときは鑑別診断のひとつに挙げていただけたらと思います。また治療は抗がん剤が主体で治療が奏功すれは治癒の可能性がある疾患です。加療は血液内科のある専門施設で行っています。ご相談いただければと存じます。

  1. 症候・診断
    診断の要は病理組織診断あるいは細胞学的診断です。治療がきついので診断をきちんとつけて治療に入るように心がけています。最も多い症候はリンパ節腫大ですが、感染症、癌転移などとの鑑別が必要です。病期が進むとB症状(発熱、体重減少、寝汗)が出現します。LDH、可溶性IL2レセプターはよいマーカーですが他疾患でもあがります。リンパ腫を疑うときも否定するときも結局確定診断は生検になります。専門施設あるいは一部の検査所ではかなり詳しい検索ができます(遺伝子、細胞表面抗原、染色体)これらの情報は診断上きわめて有用です。
  2. 分類
    病理分類は WHO分類が用いられますが、-般診療上はいくつかの特徴的な病型を理解するだけで十分と考えます。細胞起源からの分類では、大きくいまだに細胞起源の不朋なホジキン病、B細胞性リンパ腫、T細胞性リンパ腫に分けられます。B細胞性リンパ腫は腫瘍細胞の増生の仕方によって濾胞性、びまん性、また細胞の大きさによって小細胞型、混合型、大細胞型に分かれます。臨床上は病気の進行の早さによって低悪性度(年単位)、中悪性度(月単位)、高悪性度(週単位に病気が進行)に分類されます(それぞれlow,intermediate,high gradeといいます)。DLBCL(diffuse large B cell lymphomaは悪性リンパ腫の約半数を占める組織型です。多剤併用化学療法(CHOP)が標準治療です。HD(Hodgkin’s lymphoma)は約5%を占めます。若年者と高齢者の2蜂性の年齢分布をしめします。節性に進展します。限局期で80-90%、進行期でも60-70%の方が治癒する比較的予後良好の疾患です。限局期は放射線、進行期は化学療法(ABVD)が標準治療です。濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma)は組織上濾胞構造を伴った増生をするB細胞性リンパ踵でリンパ腫の約10%ほどですが近年増加傾向です。低悪性度ですが治療をしても再発を繰り返し治癒困難で、やがてびまん性リンパ腫に転化、そうなると予後は2,3年です。現在治療法の一番もめている疾患です。MALTリンパ腫とは粘膜リンパ装置から発生した節外性B細胞性リンパ腫で約15%占めます。胃、甲状腺、唾液腺、肺が好発部位です。胃のMALTリンパ腫はピロリ除菌が第一選択の治療とされています。高悪性度リンパ腫にはATL(成人T細胞性白血病)、バーキットリンパ腫、NK細胞性リンパ腫があります。非常に早い経過で進行します。
  3. Staging 予後予測モデル
    病気の広がりをStageといいます。それぞれの病期について体重減少(診断前6ヶ月で10%以上)、発熱38度以上、寝汗の症状がなければA,あればBと記号をつけます。
    I期:1リンパ節領域の侵襲、または1リンパ節外臓器あるいは部位の侵襲(IE)
    II期:横隔膜で境した片側にとどまる 2箇所以上のリンパ節領域の侵襲または1リンパ節外臓器あるいは部化の限局的侵襲とその同側のリンパ節領域(UE)
    III期:横隔膜の上下にわたる複数のリンパ節領域の侵襲、またはこれに1リンパ節外臓器あるいは部位の限局的侵襲(VE)、もしくは脾臓への侵襲(VES)W期:リンパ節の有無にかかわりなく、1つあるいは複数のリンパ節外臓器または部位のびまん性侵襲DLBCLの治療成績について予後予測モデルが発表されています。5つの予後囚子(年齢(60歳超)、LDH(正常を越える)、PS(2‐4),stageV、IV 節外病変(2個以上))の有無によってlow 0-1 low intermediate 2 high intermediate 3 high 4-5の4つのカテゴリーに分けると治療成績は以下のようになると報告されています。(NEJM 329:987-994,1993)
     5年生存率(%)CR率(%)5年健存率(%)
    Low877073
    Low intermediate 675051
    High intermediate554943
    High444026
  4. 治療の考え方
    悪性リンパ腫は抗がん剤感受性の高い腫瘍の1つです。したがってある程度進行しても抗がん剤投与により病勢をコントロール、場合によっては治癒する症例も多々あります。しかし予後予測因子にも示されるように腫瘍量の少ないほうが成績は良好です。治療は病気のstageなど疾患の状況、および患者さんの全身状態を勘案して局所治療(放射線、手術)と全身治療(抗がん剤)を組み合わせて行います。抗がん剤は多剤併用間欠投与でCHOPは3週ごと6〜8回、ABVDは2週ごと投与12回が標準治療です。従来副作用を懸念して低用量長期抗がん剤投与が行われた時期もありましたが、薬剤強度をある程度以上として腫瘍を根絶する治療をしないと結局腫瘍をきたえてしまうようで最近はあまり行われていません。逆にもっと強力に腫瘍を根絶やしにする治療として造血細胞移植療法があります。近年もうひとつ注目されているのは分子標的療法で悪性リンパ腫の領域でもCD20 を標的としたrituximab(リツキサン)というモノクローナル抗体が多用されています。
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