平成18年1月28日
「糖尿病の薬物療法」
市立奈良病院 内科部長 薮田又弘先生

 わが国において糖尿病患者の増加は大きな問題となっている。
今回の講演では、
(1)糖尿病合併症として最近注目されている心血管疾患について、
(2)糖尿病患者のトータルライフを規定すると考えられる初期治療について、
薬物療法を中心に概説する。

(1)糖尿病と心血管疾患、 
 従来から糖尿病の三大合併症として、腎症、網膜症、神経障害が重要視され、その発症予防ということが糖尿病治療の最終日標とされていた。しかし近年糖尿病の合併症としての心血管疾患が注目されている。糖尿病患者の心血管疾患はその生命予後を決定し、医療経済的にも重要な問題である。Funagata studyやDECODEによれば心血管疾患の発症には、食後高血糖の関与が考えられている。UKPDSによれば心血管疾患の発症には、血糖コントロールの良否との有意な関係は否定的で、ビグアナイド薬であるメトホルミンの有用性が証明されている。さらに最近のエビデンスとして、新たに糖尿病治療薬として登場したα−グルコシダーゼ阻害薬やチアゾリジン薬の有用性が証明されている。 糖尿病患者は高血圧や高脂血症を合併することが多いが、このコントロールも心血管疾患の発症予防には重要であり、複合的なリスク管理が必要である。

(2)糖尿病の初期治療
 糖尿病であると初めて診断された時の初期治療が、その患者の一生涯にわたる糖尿病ライフを規定すると言っても過言ではない。これについて自験例を中心に検討する。初めて糖尿病の宣告を受けた患者は不安感と驚きに見舞われる。この感情を利用して徹底した食事療法と運動療法を教育することが重要である。薬物療法としては、一生涯にわたる糖尿病治療を考えて、インスリン分泌を刺激しない薬をまず使用することが良いと思われる。

 演者は、初診時HbA1clO以上のケースの初期治療としては、まずインスリン使用により糖糖毒性の解除をはかり、その後α−グルコシダーゼ阻害薬あるいはチアゾリジン薬に移行している。この中には薬物療法を必要としなくなるケースも出てくる。初診時HbA1clO未満のケースの初期治療としては、いきなり薬物療法を開始せず、まず徹底した食事療法と運動療法を指導している。それでも改善が得られなければ、α一グルコシダーゼ阻害薬あるいはチアゾリジン薬により薬物療法を開始するようにしている。糖尿病の初期治療として不用意にSU薬を使用すると、食欲冗進、肥満につながり、長期的にみれば血糖コントロールの悪化を招く場合があり、SU薬の増量を余儀なくされる。このことは、膵β細胞の疲弊をおこしSU薬二次無効へと至る場合があるので注意が必要である。

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