平成18年2月25日 |
「不整脈薬物療法の適応と実際」 |
天理よろづ相談所病院 循環器内科 日村好宏 |
近年の不整脈診療の進歩にはめざましいものがある。不整脈そのものが治療対象であるという考え方から、治療の目的を明確にしたうえで、それぞれの目的に応じた治療法を選択することが推奨されてきている。即ち、治療のゴールが自覚症状軽減なのか、不整脈による心機能・血行動態の改善および予防なのか、突然死の予防なのか、を個々の例で慎重に検討したうえで治療の効果とリスクを判断し、治療法を選択することが重要になってきた。徐脈性不整脈に対するペースメーカー治療に加え、頻脈性不整脈に対しては高周波カテーテルアブレーション、突然死予防を目的に植込み型除細動器などの非薬物療法の有効性が確立され、不整脈治療法の選択枝が増えることで、ますます治療法選択の重要性が大きくなってきている。 しかし、一般臨床医家にとってはまず薬物療法の適応と理解が必要となる。1989年のCAST試験(陳旧性心筋梗塞患者に対し、抗不整脈薬の心室性期外収縮抑制効果が生命予後に及ぼす影響)の報告以来、抗不整脈薬投与はかならずしも予後を改善するものではなく、心機能抑制や催不整脈作用から予後を悪化させることすらあることが明らかになった。このような背景から1990年にSicillian Gambitによる抗不整脈薬分類が提唱され、従来の経験的手法による薬剤選択ではなく、病態生理学的な薬剤選択ができるような指針が示されるようになった。薬剤のチャンネルや受容体への作用分類にとどまらず、左室機能への影響、心外副作用、心電図の指標に対する効果も記載されている。従って、この分類を活用することにより、不整脈の発生機序、患者背景、病態などの個々の症例に即した薬剤の選択が可能になると考えられる。 心房細動は高齢化社会にあって罹患患者数が増えるにもかかわらず治療方法が解決されていない不整脈の一つである。それには、心房細動そのものの原疾患、病態生理、年齢、自覚症状の有無などの多様性が関係している。治療の目標を洞調律維持にするか心拍数調節にするかの問題、血栓予防の方法など今後さらに検討されていくはずである。 心電図検診では、生命に危険を及ぼす頻脈性不整脈を発現する心電図症候群に注意が必要で、1)Brugada症候群、2)QT延長症候群、3)WPW症候群などがある。 以上のことについて症例を提示しながら概説し、日常診療のなかでの不整脈患者診察の一助になれば幸いである。 |
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