平成19年3月3日
C型肝炎の最新治療
− 肝癌の予防・ALT正常者への対応を含めて −
奈良県立医科大学 消化器内分泌代謝内科 藤本正男

はじめに
 肝臓領域における臨床上の最大のテーマは肝癌の撲滅である。本邦において増加の一途を辿ってきた肝癌は、2000年以降増加のスピードは緩やかになっているものの、依然として全悪性疾患の約1割を占め、肺、胃、大腸の悪性腫瘍に次ぐ位置にある。肝細胞癌の大多数はB型あるいはC型の慢性肝障害を背景に発症し、他の多くの悪性腫瘍と異なり発癌の高リスク患者の特定が可能であり、このような高リスク患者からの発癌を阻止することは我々の責務であろう。C型肝障害からの発癌はその障害の程度が高い程発生率が高いが、幸い特にこの5-6年間の抗ウイルス療法の進歩はめざましく、肝硬変、肝不全への進展、および肝癌発生の阻止を目的とした種々の方策の選択が可能となっている。しかし実際の臨床現場では、未だに進行した状態で初めて発見される肝癌が稀ではない。

C型肝炎
 当科で診療を行ったC型慢性肝炎IFN単独投与1003例(60才以上227例、65才以上83例)とIFN非投与480例(60才以上112例、65才以上52例)を対象とした多変量解析の結果、肝癌発生の危険性は、IFN非投与例、肝組織線維化の進行例、高齢者において有意に高く、さらにIFN投与例に限ってみるとIFN非反応例(治療期間中一度もHCV-RNAの陰性化が得られなかった例)、ALTが高値で経過した例において有意に高かった。この結果と、1b高ウイルス症例でIFN治療抵抗性が高いことを併せて考えると、1b高ウイルス症例、肝線維化進行例、高齢者において肝癌発生のriskが高いことが予測される。

 1b高ウイルス症例に対しては2004年12月からペグインターフェロン、リバビリン併用投与が保険適応となった。これにより1b高ウイルス症例のSVR(ウイルス完全駆除)率は50-60%と飛躍的に向上している。1b高ウイルス症例に対しては週1回、48週間投与が標準治療であるが、これまでの治療成績では投与開始24週以内に血中HCV-RNAが陰性化しない場合、48週投与でSVRを得ること極めて困難である。また投与開始12週時点でHCVが陰性化しない場合も、48週投与でSVRとなる確率は低い。これらの症例については48週間の標準治療後も引き続きIFN投与を継続する等、さらなる対策が必要である。

 なお2005年12月からは1b以外の高ウイルス症例および再治療例についてもペグインターフェロン、リバビリン併用投与が保険適応となり、1b高ウイルス症例以外については約90%の症例でSVRが得られている。

 加齢は前述のとおり肝硬変への進展、肝癌発生の有意の危険因子である。実際IFN非反応例の肝硬変進展率をみると60才未満で4%/年に対して60才以上で7.5%/年と高齢層で有意に高率であり、また肝癌発生率についても60才未満2.5%/年に対しで60才以上5%/年と有意に高齢層で高率であった。高齢群では若年群に比して非SVR例が高率であったが、この一因として高齢層で白血球、血小板減少等の副作用がより生じやすく、IFN治療の継続が困難になることが挙げられる。また最近、高齢者のなかでも女性のSVR率が男性に比して低いことが指摘されるようになっている。近年IFN治療を希望する患者の高齢化も顕著となっており、高齢者に対する治療戦略は今後の大きな課題であろう。

 IFN治療でSVRを期待しにくい症例や肝線維化進行例に対して、肝炎の沈静化あるいは肝発癌予防の目的でIFNの少量長期投与が推奨されている。2005年4月からはIFN自己注射も保険認可され、また2006年4月から1b高ウイルス以外の肝硬変症例についてフェロン(IFNβ製剤)の適応が拡大され予後の改善が期待されている。

 最近ALTが基準値内にあるC型肝炎患者に対する治療が話題となっている。長期に観察するとこのような症例の大部分でALTは一過性、あるいは持続性高値を示し、肝線維化の進展を認める例が少なくない。種々の肝機能検査を参考に、できれば肝生検を行い線維化進展例を見逃すことなく抗ウイルス治療を行うことが肝要である。

 このように近年IFN療法が積極的に施行されているが、数年先には新たな抗ウイルス薬としてプロテアーゼ阻害剤が使用可能となる見込みである。

 抗ウイルス以外の治療として、グリチルリチン製剤、ウルソ製剤等の肝臓病薬も肝炎の沈静化には有効である。また、以前から飲酒が肝硬変、肝癌の促進因子であることが指摘されているほか、最近インスリン抵抗性と肝の脂肪沈着が抗ウイルス薬の効果に負に作用することが指摘されており、日常生活における禁酒、肥満の改善の指導も重要である。

 C型肝炎発見を目的とした節目検診は開始後5年を経過し、毎年全国で全受診者の1%前後の抗体陽性者が発見されているが、検診の実効性を高めるための事後処理の体系化が今後の課題となっている。

肝細胞癌
 前述のとおり、C肝型肝疾患の診療にあたっては、高率に肝細胞癌が発生することを常に念頭におく必要がある。C型肝硬変の年率肝癌発生率は6〜8%/年と高率であるが、慢性肝炎においても肝癌発生率はF1で0.2%/年、F2で1%/年、F3で3%と決して低率ではない。肝癌は時間的、空間的に再発しやすく、また背景に肝障害を有するという特徴を持ち、予後は腫瘤の進行度(大きさ、数、脈管浸潤の有無等)のみならず肝の予備能にも大きく左右される。当科で診療した924例についてJIS(Japan Integrated Staging)スコアを用いてその予後を検討したところ、JIS0の早期癌(肝予備能Child A以内、2cm未満単発、脈管浸潤なし)の5年生存率は77.5%と比較的良好であった。すなわち良好な予後を得るには肝予備能が保持され、さらに腫瘍が小さな状態で治療を開始することが重要であり、早期発見のためには年2-4回、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA2)の測定と画像検査(US、CT等)を組み合わせて施行する必要がある。なかでも定期的なUS,CT等の画像診断は極めて重要で、必須事項であり、肝臓専門医との病診連携が強く望まれる。

 肝癌の治療法としては近年ラジオ波焼灼療法(RFA)が保険認可され、外科的切除、肝動脈塞栓術(TACE)、エタノール注入療法(PEIT)等と並んで広く用いられている。また、当院では2005年3月から最新の定位放射線治療専用liniac装置(Novaris)が稼働しており、肝癌への応用が行われている。

まとめ
 これまで当科で診療を行ったC型慢性肝炎および肝癌症例の解析結果を交えて、最近のC型慢性肝炎、肝癌の治療、および病診連携のあり方について概説した。

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