- めまい診療のピットフォール
めまいの診療には誤解がある。たとえば、めまいはほとんどが脳の病気(脳梗塞、脳出血などの脳卒中や脳腫瘍など)であると考えられているが、国立循環器病センター脳血管内科のデータでは救急入院のめまい患者100名の原因をしらべると、軽い脳梗塞が約10%で、残りの80%は耳鼻科のめまいであった。また、めまいはほとんどが原因不明なメニエール病であり、めまいはくり返すと考えられているが、奈良医大耳鼻咽喉科で外来めまい患者の原因をしらべると、メニエール病は全体の約10%しかなく、メニエール病を含めた末梢性めまいは約0%であった。
また、めまいの診療上の問題点がある。神経耳科、平衡神経科を標榜する専門医が少なく、大学病院、基幹病院の耳鼻咽喉科、神経内科でも専門的治療を受けられるとは限らない。自然治癒や中枢代償によるめまい症状が始まるため、対症的治療で十分であるので専門的知識の必要性がない。鑑別診断がわかりにくく、平衡機能検査が複雑なため総合的に判断する必要がある。画像検査の発達により、神経内科、脳外科からの耳鼻咽喉科への診察依頼が増加し、めまいの“専門医”としての耳鼻咽喉科に注目されているが、対応できる耳鼻咽喉科医は少ない。などが指摘されている。
- めまい診断と治療のコツ
眼振の観察は、フレンツェル眼鏡よりも赤外線CCDカメラの方がより詳細な眼振を検出できる。中枢性と末梢性めまいとの鑑別では、中枢性障害の場合、動揺性めまいが長時間続くが程度は軽く頭位・体位との関連は少ない。末梢性障害の場合、回転性めまいを反復し程度は激しく、頭位・体位との関係がしばしばあることが特徴である。急性めまいの代表的疾患について見ると、末梢性前庭障害の前庭神経炎は、回転性めまいはあるが蝸牛症状はない。メニエール病は、回転性めまいに加えて耳鳴、難聴がある。突発性難聴は、突然発症の難聴があるが、1/3にめまいを伴う。BPPV(良性発作性頭位めまい症)は、特定の頭位でめまいが誘発される。中枢性前庭障害の椎骨脳底動脈循環不全症は、めまい、構音障害、失調がある。脳幹・小脳梗塞は、脳神経症状に小脳症状を伴う。小脳出血は、めまいに嘔吐、頭痛を伴う。危険な中枢性めまいを見逃さないポイントは、めまい以外の神経症候の有無に注意することである。意識障害の有無、構音障害の有無(呂律不良等)、視覚異常の有無(複視、眼球運動制限)、四肢麻痺の有無を確かめ、これらの神経症候異常を認める場合は、画像検査を施行し、神経系専門医の診断を仰ぐことが重要である。
- 遷延するめまい
遷延する原因としては、代表的なものに高齢者のめまい、脳血管障害の既往のあるめまい、慢性中耳炎によるめまい、BPPV(良性発作性頭位めまい症)によるめまいがある。高齢者のめまいでは、慢性脳循環不全症のほか、身体バランスを司る視覚、平衡覚、深部知覚が加齢に伴って障害された状態。脳血管障害の既往のあるめまいは、動揺性の非定型めまいのほか、自発性低下、記銘力低下、感情失禁、せん妄、見当識障害、睡眠障害、などの精神症状を随伴する。急性中耳炎、慢性中耳炎の存在する場合、他の原因によるめまい症が併存するかいなかの鑑別は困難である。急性中耳炎に対しては消炎治療、慢性中耳炎に対しては手術治療を行って術後経過を慎重に観察することが診断に役立つ。BPPV(良性発作性頭位めまい症)では、後述する浮遊耳石置換法と平衡訓練が有効である。
- めまいの理学療法
浮遊耳石置換法とは、半規管内に浮遊している半規管結石を、理学療法により半規管の外(卵形嚢)に導いて治癒させる治療法。BPPVの頭位めまいおよび頭位変換眼振の消失時期を早めることが証明されている。
代表的な浮遊耳石置換法として、後半規管型BPPVに対するEpley法と外側半規管型BPPVに対するLempert法がある。後半規管型BPPVに対するEpley法の実際では、@座位で45度病変側を向き、A臥位になり障害耳を下にした懸垂頭位をとる。2,3分後にBゆっくりと頭を反対側に捻転する。C引き続き、頭と体の位置を変えずに体側へ側臥位となる。D座位に戻り、頭部を前屈する。
- もしめまいがおこったら
患者様や一般の方々へ正しい知識を啓蒙することも重要である。第一にめまいがおこってもパニックにならないことが肝心である。激しいめまいに襲われたら、吐いた物がのどに引っかからないように体を横たえ、衣服をゆるめて症状が弱まるのを静かに待つのが基本。乗り物酔いの薬が効果を示すこともあるが、なるべく早めに専門医の診察を受ける必要がある。危険なのは、めまいに加えて手足がシビレる、物がだぶって見える、といった状態の重なる場合である。脳のどこかで障害が起きている可能性があるので、この時は一刻も早く病院へ。処置が遅れると、命に関わることもある。
めまいの時の受診科では、聞こえが悪くなっていたり、耳鳴りがしたり、耳がつまった感じがするときには、耳の平衡器官によるめまいの可能性が高く、耳鼻咽喉科を受診する。めまい以外に、意識が遠のいたり、物がふたつに見えたり、ろれつが回らなくなったり、手足の麻痺があるときには、脳の障害によるめまいの可能性があるので神経内科や脳外科を受診する。
最後に、めまいについては、めまい平衡医学会のHPも参考になる。
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