平成19年10月27日 |
「NSAIDs による胄粘膜傷害の実態と今後の対策 〜FORCE Studyから得られた最近の話題〜」 |
奈良県立医科大学 第3内科 講師 山尾純一 |
胃粘膜傷害の原因としてはヘリコバクター・ピロリがもっとも重要であるが、非ステロイド性抗炎症剤(non‐steroidal anti‐inflammatory drugs=NSAIDs)の存在も忘れてはならない。特に近年、社会の高齢化に伴うリウマチ性疾患、変形性関節症などの境加によりNSAIDs起因性胃粘膜傷害の重要性はますます高まりつつある。したがって、NSAIDs起因性胃粘膜傷害の実態を把握し、適切な対策を立てることは消化器内科における非常に重要なテーマである。そこで今回われわれはNSAIDsを4週間以上継続服用中の患者261例を対象とし、内視鏡を用いてNSAIDs起因性胃粘膜傷害の疫学調査を行った。その結果、NSAIDs長期服用患者の63%に胃粘膜傷害が認められ、NSAIDs起因性胃粘膜傷害の頻度が非常に高いことが再確認された。 注目すべきは、自覚症状を認めない患者においても59%に胃粘膜傷害を認めており、症状の有無は必ずしもNSAIDs起因性胃粘膜傷害の予測因子とならない点である。そこで、NSAIDs長期服用患者における胃粘膜傷害発生のリスクファクターを明らかとする目的で多重ロジスティック回帰による解析を行った。その結果、1)シクロフェナックは他のNSAIDsより有意に胃粘膜傷害発生のリスクを増加させることが明らかとなった。2)また、ヘリコバクター・ビロリはNSAIDs長期服用患者における胃粘膜傷害の発生率を上げるのではなく、重篤化に関与している可能性が示唆された。 次に、NSAIDs潰瘍の治療法としては、消化性潰瘍治操のガイドラインではまず第一にNSAIDs を中止することが推奨されている。しかしながら、関節リウマチや変形性関節症患者においてNSAIDs を中止することは事実上不可能である。このようなNSAIDsを中止できない症例に対して、潰瘍治療のガイドラインはブロスタグランディン製剤あるいはプロトンポンブインヒビターの投与を推奨している。しかし、プロスタグランディン製剤は妊娠可能の女性に対して投与できず、副作用(主に下痢)の頻度が高いという欠点を持っている。また、NSAIDs潰瘍に対するブロトンポンプインヒビターの投与は保険適応,となっていない。さらに、潰瘍治療のガイドラインは欧米での成績のみが基礎となっているため、人種の異なる日本でまったく同じ成績となる保障はない。そこでわれわれは、欧米人に比べて胃酸分泌能の低い日本人におけるNSAIDs起因性胃粘膜傷害(びらん・出血)に対する治療法を保険適応下で検討するために、H2ブロッカ一であるファモチジン(20mg/日:保険適応用量)と粘膜防御系製剤レバミピド(300mg/日:保険適応用量)のNSAIDs胄粘膜傷害に対する治療効果の比較(FORCE試験)を行った。その対象は先のNSAIDs 長期服用患者261例に対して内視鏡的スクリーニングを行った際に胃粘膜傷害(ひらん・出血)を認めた例である。これら胃びらん・出血例を、ヘリコバクター・,ピロリ抗体の有無とLanza スコアの重症度を勘案して動的割付した。試験薬はNSAIDs継続投与下で4週間投与し、投与前後におけるLanzaスコアを比較した。また、本試験は前向き、遮蔽テストであり、遮蔽性を保障するためLanzaスコアの判定は内視鏡実施医以外の第三者が行った。その結果、ファモチジン投与例(57例)における Lanza,スコアは2.4→1.3と有意に(p<0.001)低下したが、レバミピド投与例(55例)におけるLanza スコアは2.4→2.2であり、有意な変化を認めなかった。また、ファモチジン投与例のLanza スコア姿化量(1.2)はレバミピド投与例の Lanza スコア変化量(0.2)に比して有意に(p=0.002)高かった。さらに、ファモチジン投与例における胃粘膜傷害の治癒率は45.6%であり、レバミピド投与例の治癒率18.2%に比して有意に(p<0.01)高かった。以上から、NSAIDs 長期服用患者の胃粘膜傷害(出血・びらん)に対し、ファモチジンは明らかな治療効果を有しており、その作用はレバミピドに比し有意に優れていると考える。 最後に、NSAIDs胃粘膜傷害に対する今後の対策の一つとしてCOX‐2 選択性阻害剤の存在を挙げたい。すなわち、胃粘膜の恒常性維持に重要な COX-1を阻害せず、炎症反応の際に誘導され、発熱、疼痛等の症状を発現するCOX‐2のみを阻害することで、NSAIDsの抗炎症作用を維持しながら副作用の軽減を図るという試みとしてCOX−2 選択性阻害剤は注目されている。本薬剤には創薬段階からCOX‐2に対する選択的阻害作用を意図されたものと、選択性を意識されずに創薬されたが、COX−2に対する作用がCOX−1に対する作用に比べて明らかに優っているものの2種類がある。前者としては最近薬価収載となったセレコックスがあり、後者には、エトドラクとメロキシカムがある。両者は元来全く異なったconceptに基づくものであり、その作用を同列に述べることは出来ない。今後は特にセレコックスが実際に本邦における、NSAIDs費粘膜傷害の減少に寄与しうるか否かに注目すべきと思われる。 |
このページのトップに戻る 定例講演会の目次のページに戻る 天理地区医師会のトップページに戻る |