「痛み」とはIASPの用語委員会の定義(一九七九)で組織の損傷を引き起こす、あるいは損傷を引き起こす可能性のある時に生じる「不快な感覚」や「不快な情動を伴う体験」、あるいはそのような損傷を表現する用語で表される「不快な感覚」や「不快な情動を伴う体験」であると定義されている。
痛みの理解としては「情動である」と言う考えと「感覚である」と言う考えが変遷してきたが、現在では感覚でも情動でもあり、痛みを修飾する系があるというゲート・コントロールセオリーのあと、痛みの多層モデルが提唱されている。
痛みには末梢の侵害受容器の刺激による侵害受容性疼痛、求心路遮断性などの神経因性疼痛、心因性疼痛がある。また疼痛の起源臓器と関連のDermatomeに投影されて感じる疼痛として関連痛があり痛みの原因追及を困難にしている。
慢性痛は痛みの原因が慢性的に続いている場合と、痛みの原因が治癒した後にも続いている場合があり、組織傷害に伴うひとつの症状ではなく痛み自身が病態であるので、痛みそのものをできる限り治療する必要がある。
二〇〇三年に奈良医科大整形外科関連病院での腰痛疾患を対象とした集計では、腰部脊柱管狭窄症三〇九例(六六・二%)、いわゆる腰痛症三五例(七・五%)、腰椎椎間板ヘルニア二八例(六・〇%)脊椎症、腰椎症二七例(五・八%)などで、腰椎椎間板ヘルニアなどよりも腰部脊柱管狭窄症が圧倒的に多いことが判明した。腰部脊柱管狭窄症の症状の特徴は間欠性跛行で血管性の間欠性跛行との鑑別が重要である。高齢者の腰痛では上記の腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなどと共に、骨粗鬆症性の骨折、原発腫瘍、転移性腫瘍などによる病的骨折、化膿性脊椎炎、脊椎カリエスなどの炎症性疾患も忘れてはならない。
腰痛疾患の保存的治療の選択に際して重要なことは、高齢者はXPなど画像上の無症候性の骨変化が多いことであり神経症状が必ずしも一致しないことが多く、画像を過大に評価してはいけない。
保存療法の基本は生活指導と体操療法で、不良姿勢の認識と除去、脊柱伸展筋群と屈曲筋群のバランスをとるような筋力強化とストレッチングを勧め、精神的、身体的、社会的なリラクセーションをはかる。
理学療法としては牽引療法、低周波、高周波療法などの電気治療、温熱、寒冷療法などの選択肢がある。
薬物療法としては消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、末梢循環改善剤、ビタミン剤、精神安定剤、抗うつ剤、PGE1、Vit.D、ビスフォスフォネートなどの内服や軟膏、湿布などの外用剤を使用する。
また即効性を期待して腰部圧痛点ブロック、椎間関節ブロック、腰部硬膜外ブロック、腰仙部神経根ブロックなどのブロック療法を行う。
これらの保存的治療によっても改善が得られず、日常生活や社会生活に支障を来す場合には手術を検討する。
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