標本を持ち帰る治療・・組織回収法
EMR(内視鏡下粘膜切除術、ストリップバイオプシー)
ポリペクトミー
ESD(内視鏡下粘膜下層切開剥離術)
標本を持ち帰らない・・組織焼灼法・・レーザー
APC(アルゴンプラズマ凝固)
粘膜に限局した早期の胃癌や食道癌を、病変の辺縁にあわせて、自在な大き
さ/形状に粘膜下層までつけて切り取るESDは、時間/技術/コストの掛かる
治療ではあるが、一括切除された標本により、深達度や微細な深部浸潤/脈管
侵襲などをふくめ正確な病理診断を下すことができ、追加治療(外科的リンパ
節郭清/食道では放射線化学療法など)の要否を検討できる。また、従来法の
EMRなどでは多分割切除となり局所再発が無視し得ない頻度でみられたもの
が、ESDでは、基本的に一括切除できるようになった。
内視鏡治療は胃内治療であり、リンパ節郭清を行なえないため、リンパ節に
転移している可能性のない(少ないと仮定される)癌を対象とする。ESDによ
り、広範囲の病変や胃潰瘍瘢痕を多少ともなう病変も時間をかけることで切除
できるようになった。このような、従来法のEMRでは切除不能であった病変で
のリンパ節転移の確率を、外科的手術例でのリンパ節転移率から推定し、リン
パ節転移の極少ないと推定される群を適応拡大病変として、実際にESD後の
長期経過を追って外科治療に遜色ないかどうか比較検討が行われている最中で
ある。例えば、胃がん治療ガイドライン上、従来法EMRでは分化型腺癌で径2
pまでとされた治療対象を2p以上に広げて研究的治療が行なわれるようにな
っている。
偶発症/合併症としては、内視鏡切除操作中および遅発性の穿孔/出血があ
り、内視鏡にて処置/治療可能な場合も、緊急開腹手術が必要となる場合もあ
る。長時間にわたり、気管内挿管による気道確保を行なわずに鎮静剤投与(ジ
アゼパム+ペンタゾシン)のみで施行されるため、呼吸抑制や鎮静不十分によ
る譫妄・体動、誤嚥性肺炎、下肢静脈血栓症や肺梗塞などの報告もある。
通常前日に入院し、術後は、数日で粥食を摂取し約一週間で退院となり、潰
瘍は一〜三ヶ月で治癒するが、広範な切除の場合、潰瘍治癒につれ消化管の変
形/狭窄が問題となることがある。狭窄が予想される病変では内視鏡下の拡張
術を外来通院にて行なう。
他の内視鏡治療や外科処置と同様、抗血小板剤/抗凝固剤は治療前から休薬
が必要で、休薬にともなう血栓/塞栓症のリスクも勘案して、治療適応を検討
する。
一般に超高齢者などでは、入院しただけでもADLの低下や譫妄を来すことも
多く、十分な本人の理解が得られる場合に、もともとのperformance status
/背景疾患の有無や予後をも勘案して適応を決定している。最近では、低侵襲
な腹腔鏡手術も発達してきており、当院では、消化管癌に対する治療方針を外
科/内科/放射線科合同相談する体制を整え、どの科に紹介されても科の枠組
を超えて一番望ましい治療を行えるよう努力している。
**外科/内科を問わず、ご紹介の節には、内視鏡生検標本のプレパラートを
お貸し頂きますよう、お願いいたします。
脳梗塞治療の分野では、二〇〇五年本邦でもrt-PA(アルテプラーゼ)静注療法が保険適応になって以来、超急性期にいかに多くの脳梗塞患者を脳卒中専門病院に速やかに搬送し、本治療を行える患者を増やしていくかが最重要課題になっている。確かに、発症三時間以内施行されるrt-PA療法は、発症前同様の日常生活を送ることができる患者が増える画期的な治療法である。ただ、発症後三時間以内に専門病院に搬送されれば、すべての脳梗塞患者が、本治療の恩恵に預かれるわけではない。rt-PA治療の適応を決めるのに、頭部CTやMRIといった画像検査が必要で、また、血液検査を行い、禁忌事項がないか慎重に判断しなければならない。諸検査にかかる時間を考慮すると、遅くとも発症二時間以内に専門病院に搬送されることが望ましい。また、rt-PA投与直後に急速に麻痺症状が改善する患者がいることは確かだが、症状に変化がない患者や、脳出血を併発して、かえって症状が増悪する患者も少数ながらいることも確かである。rt-PA療法は、諸刃の剣であることを患者、家族に説明の上、施行しなければならない。当院での経験からの注意事項として、脳梗塞患者が救急搬送された時点で、家族の方との連絡がつかず、家族の同意所得に時間がかかり、投与開始時間が遅れることも多いことをあげておきたい。
慢性期の脳梗塞再発予防に関して、抗血栓治療薬としては、心原生脳塞栓にはワーファリンといった抗凝固薬、非心原生脳梗塞にはアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールといった抗血小板薬を用いることになる。ただ、抗血栓治療薬のみでは、脳梗塞の再発予防は不完全で、合併している高血圧や脂質異常症の治療、禁煙指導などを合わせて施行しなければならない。
歯科治療に際して、抗血栓治療薬を一時的に中止するかに関しては、適切な治療域に入っている場合は、抗凝固薬も抗血小板薬も続行したまま抜歯を行うことが勧められている。内視鏡検査に関しては、当院では抗血栓治療薬服用時は、観るのみで生検等の観血的処理は施行しないことにしている。アスピリン服用の場合、生検などの低リスク手技の場合は術前三日の中止、ポリペクトミーなどの高リスク手技の場合は術前五日間の中止が必要である。白内障手術では、抗血栓治療薬は継続して行うことも多くなってきている。
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