平成20年5月31日
最新の脳梗塞治療の現状 急性期〜慢性期まで
天理よろづ相談所病院 神経内科部長 末長 敏彦先生

 脳梗塞治療の分野では、二〇〇五年本邦でもrt-PA(アルテプラーゼ)静注療法が保険適応になって以来、超急性期にいかに多くの脳梗塞患者を脳卒中専門病院に速やかに搬送し、本治療を行える患者を増やしていくかが最重要課題になっている。確かに、発症三時間以内施行されるrt-PA療法は、発症前同様の日常生活を送ることができる患者が増える画期的な治療法である。ただ、発症後三時間以内に専門病院に搬送されれば、すべての脳梗塞患者が、本治療の恩恵に預かれるわけではない。rt-PA治療の適応を決めるのに、頭部CTやMRIといった画像検査が必要で、また、血液検査を行い、禁忌事項がないか慎重に判断しなければならない。諸検査にかかる時間を考慮すると、遅くとも発症二時間以内に専門病院に搬送されることが望ましい。また、rt-PA投与直後に急速に麻痺症状が改善する患者がいることは確かだが、症状に変化がない患者や、脳出血を併発して、かえって症状が増悪する患者も少数ながらいることも確かである。rt-PA療法は、諸刃の剣であることを患者、家族に説明の上、施行しなければならない。当院での経験からの注意事項として、脳梗塞患者が救急搬送された時点で、家族の方との連絡がつかず、家族の同意所得に時間がかかり、投与開始時間が遅れることも多いことをあげておきたい。
  
 慢性期の脳梗塞再発予防に関して、抗血栓治療薬としては、心原生脳塞栓にはワーファリンといった抗凝固薬、非心原生脳梗塞にはアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールといった抗血小板薬を用いることになる。ただ、抗血栓治療薬のみでは、脳梗塞の再発予防は不完全で、合併している高血圧や脂質異常症の治療、禁煙指導などを合わせて施行しなければならない。

 歯科治療に際して、抗血栓治療薬を一時的に中止するかに関しては、適切な治療域に入っている場合は、抗凝固薬も抗血小板薬も続行したまま抜歯を行うことが勧められている。内視鏡検査に関しては、当院では抗血栓治療薬服用時は、観るのみで生検等の観血的処理は施行しないことにしている。アスピリン服用の場合、生検などの低リスク手技の場合は術前三日の中止、ポリペクトミーなどの高リスク手技の場合は術前五日間の中止が必要である。白内障手術では、抗血栓治療薬は継続して行うことも多くなってきている。

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