平成20年7月26日 |
「バリア機能からみた、皮膚・爪疾患の理解」 |
天理よろづ相談所病院 皮膚科部長 森田 和政先生 |
皮膚のバリア機能では、表皮の角質層の役割が重要である。角質細胞に加えて、角質細胞間脂質(セラミドなど)、天然保湿因子、皮脂が皮膚のバリア機能を担う。一方、タイトジャンクションは単層上皮でのバリア機能を担う。近年、表皮においてもタイトジャンクションが顆粒層に存在し、少なくともマウスでは、表皮バリア機能に不可欠であることが判明した。加えて、ヒトの遺伝性魚鱗癬(NISCH症候群)では、タイトジャンクションの接着分子であるクローディン−1の変異が認められることも明らかとなり、タイトジャンクションと角化の関連が示唆されている。 皮膚のバリア機能が損なわれる病態としては、アトピー性乾皮症と老人性乾皮症が日常診療で遭遇しやすい疾患である。アトピー性乾皮症は軽微な湿疹反応により、表皮細胞のターンオーバーが亢進している。そのため表皮細胞が分化不十分な状態で角質層に移動するため、角質層のバリア機能低下を来す病態である。従って、保湿剤に加えて、抗炎症療法も有効であるが、ステロイド外用剤は副作用や忌避感により使用しにくいことも多い。この点、塩酸オロパタジンなどの抗アレルギー剤(抗ヒスタミン剤)の内服を併用することも検討すべきであろう。また、最近では、一部のアトピー性皮膚炎において、フィラグリンの遺伝子変異が角質層バリア機能の低下をもたらす可能性が明らかになりつつある。 一方、老人性乾皮症は、老化による表皮細胞の増殖速度低下、蛋白分解酵素分泌の低下などにより、層数の厚い、硬い角質層が形成される。この角質層は亀裂が入りやすく、亀裂が生じるとアレルゲンの侵入を来し、皮膚炎を生じる。 表皮のバリア機能は角質層の厚みと相関する。角質層が厚い掌蹠では表皮バリア機能が高く、角質の固まりともいえる爪はさらにバリア機能は高い。しかしながら、爪と皮膚の境界部は爪本体に比べるとバリアが弱く、その場所からアレルゲン、刺激物質、真菌などが侵入し、爪疾患を生じる。 爪の真菌症で最も頻度が高い疾患が爪白癬である。爪白癬の病態の一つに爪の肥厚があるが、その原因は爪下の角質増殖である。爪下皮は表皮と同様の重層扁平上皮であるが、白癬菌の刺激により増殖、過度の角化を生じる。一方、乾癬などの炎症性角化症でも爪下皮の増殖、過度の角化を生じることがある。この場合も、爪の肥厚を生じるが、外観では爪白癬と区別がつきにくいことも多い。従って、抗真菌剤の内服、外用療法は、苛性カリ法による鏡検などで、真菌を証明してから行わなければならない。 |
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