平成20年10月25日 |
「在宅ホスピスの実際」 |
ひばりメディカルクリニック 杉山 正智先生 |
現在、わが国では末期がんになったとき、人生の最後を迎える場所は、病院、ホスピスなどの医療施設、特別養護老人ホーム、グループホームなど老人施設、自宅の三通りの選択肢があります。自宅での看取り、すなわち在宅死は戦後減少の一途をたどり、平成十八年現在わずかに一二・二%しかありません。できるなら自宅で最後を迎えたいと思う人は九割近くにも上りますが、実際にそれが可能だと思う人は五十%程度しかいません。奈良県は在宅看取り一六・五%と全国一の在宅死を誇っていますが、決して十分な数字とは言えません。当院では年間二〇〇人の在宅がん患者を診療し、年間約一二〇人を自宅で看取っています。この経験を踏まえて、来るべき十年後二十年後には年間死亡者数が一・五倍以上に膨れ上がり多くの死亡場所難民が出現すると予測される中、いかにして在宅のシステムを構築するか、自宅でがん患者を看取るために何が必要かをお話したいと思います。まず、在宅ホスピスを進めていくためには医療者が自宅に帰しても大丈夫だということを認知すること、そして市民が自宅に帰っても大丈夫だということを知る必要があります。一般的には在宅看取りが難しい理由として@看取りシステムの不在A看取りシステムを病院の医療者が知らないB看取りシステムを一般市民が知らないC核家族化による介護力不足の四つがあげられています。奈良県の北和地区においては看取りのシステムを当院が構築し、病院に対しては十分な周知を行ってきました。核家族化による介護力不足に関しても三人家族であれば十分に看取りが可能であるとのデータが出ています。それでも在宅でのがん患者の看取りは一二%程度からなかなか増えません。当院では、今現在の一番大きな問題はいかに市民に周知するかということだと考えています。国民が在宅死を望んでいないというのが一番の課題だと思います。在宅ホスピスを行うためには、症状コントロール、心のケア、看取りのプロデュースの三点が必要になります。症状コントロールが難しいように思われていますがハンドブック程度の本を一冊携えていただければ、それほど困難ではありません。心のケアも専門職が必要なわけではなく、しっかり症状コントロールを行い患者と家族に対して向き合うことができればおのずからできていきます。看取りのプロデュースは在宅ホスピスが患者だけのためではなく、家族にとってもよい看取りになることがもうひとつの目的であることを知っていただければよいと思います。今後は専門クリニックだけではなくがん診療連携拠点病院を中心として開業医の皆さんも在宅ホスピスに関わっていただく必要があります。また、厚生労働省が定めたがん対策基本法にある早期からの緩和ケアというのは在宅において外来化学療法と在宅医療の併用において実行するのが最も行いやすいやり方だと考えています。在宅ホスピスが広く認知され、患者がどこにいても十分な緩和ケアを受けることができるようになり、がんで亡くなることが一番望ましいと思えるような日本を作っていくことがこれからの私たちの責務だと思います。 |
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