平成20年11月29日
「CKD(慢性腎臓病)−病診連携を中心に−」
奈良県立奈良病院 内科・循環器科医長   濱野 一將先生
 現在、我が国の慢性透析患者数は増加の一途をたどっており、2010年には30万人を超えることが予想されている。特に、糖尿病性腎症から透析に導入される患者は、新規導入透析患者の42%を占めており、慢性糸球体腎炎からの透析導入患者数を大きく上回っている。
 私たち腎臓内科医は、糖尿病性腎症を含む慢性腎臓病(CKD)の進展および予防に努め、患者の健康を守ることに加えて増え続ける膨大な医療費を抑制しなければならない。
 増加し続ける末期腎不全の背後には膨大な数の予備軍が存在するが、それらをCKDという言葉で総括的に捉えて対策を講じなければならない。CKDは、腎臓の障害(蛋白尿など)、もしくはGFR(糸球体濾過量)60ml/min/1.73m2未満の腎機能低下が三カ月以上持続するものと定義されている。日本腎臓学会から、日本人の推算GFR(eGFR)(ml/min/1.73m2)=194×(血清クレアチニン値)-1.094×(年齢)-0.287(女性は×0.739)が新たに提案されている。
 本邦でのCKD患者数は、約1900万人(成人人口の約19%)と推計されている。特に治療が必要なGFR50ml/min/1.73m2未満に限っても420万人(成人人口の約4%)に達すると予想されている。また、多くの大規模臨床試験からCKDが心血管疾患(以下CVD)のリスクを大幅に高めることが立証されており、CKDへの対策がCVDの抑制にも貢献すると考えられている。
 CKDの治療においては厳格な血圧の管理が一番重要になる。CKD患者においては、血圧を130/80mmHg未満に管理することが腎不全の進展抑制に必要と考えられている。さらに、蛋白尿の多い患者にはより厳格な降圧(125/75mmHg未満)が必要になる。降圧薬は、CKD患者では禁忌でないかぎりRA系抑制薬を第一選択とする。しかし、RA系抑制薬単独では降圧目標を達成することは難しく、多くの場合には他の降圧薬併用が必要になる。また、RA系抑制薬投与開始初期に血清クレアチニンが上昇することはあるが、30%以下の上昇であれば腎保護作用が現れた結果でありRA系抑制薬の投与を継続することが望ましい。CKD患者ではRA系抑制薬の投与により血清カリウム値が上昇することもあるが、生野菜や果物を控えるなどの食事指導と陽イオン交換樹脂を投与しながらRA系抑制薬を可能な限り継続することが腎保護のためには望ましい。また、糖尿病性腎症患者では血圧コントロールとともに血糖をHbA1c
6.5%未満、LDLコレステロールを120mg/dl未満に管理しなければならない。従来は不可逆的であると考えられてきた糖尿病性腎症であるが、いくつかの報告で血糖、コレステロール、および血圧を厳格に管理することにより微量アルブミン尿が消失する可能性が示唆されている。また、CKDステージ2、ステージ3に進展している場合には、CVD発症も考慮した包括的な治療を行う必要がある。
 最後に、CKDを進行させないためには、かかりつけ医と腎臓内科医との連携が欠かせない。かかりつけ医が腎臓内科医に紹介する目安としては、@0.5g/日クレアチニン以上または2+以上の蛋白尿 AeGFR<50mL/min1.73m2 B蛋白尿と血尿が共に陽性(1+以上)である。日常の診療はかかりつけ医で行い、3か月から6か月に一度、腎臓内科医を受診して腎生検を含めた精査や治療が実施される。腎臓内科医は、かかりつけ医に対してその経過を報告するなどの連携と役割分担が重要である。

   



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