平成21年10月3日
「ピロリ陰性時代における疾病構造推移とPPI/H2RA使用上の留意点ー改訂Helicobacterpylori感染の診断と治療のガイドラインを含めてー」
青山内科クリニック 胃大腸内視鏡・IBOセンター院長 青山 伸郎先生
 1982年、胃の中に細菌が棲んでいることを見いだしたオーストラリア・パースのウオーレン、マーシャル両博士が2005年ノーベル医学生理学賞を受賞した。ピロリ感染は慢性(活動性)胃炎の原因であり、潰瘍、胃癌については、その必要条件だが(潰瘍、胃癌ではほとんどピロリ陽性)十分条件ではない(潰瘍、胃癌はピロリ感染者の一部)。しかし、複数の原因の中で最大の貢献を果たしており、その除菌により発症が有意に阻止される、という関係である。

潰瘍に関しては、ピロリ除菌により胃十二指腸潰瘍再発が無投薬でも阻止されること、阪神大震災でのストレス下でもピロリ陽性者のみ潰瘍再発したことから、酸、ストレス、ピロリ、NSAIDsの潰瘍の四つの成因は、ピロリ、NSAIDsの二つに集約され、ピロリ除菌例でも生来のピロリ陰性例と同レベルまで潰瘍発症が阻止される。従ってピロリ陰性時代を迎えた今日、NSAIDs(+LDA)など薬剤性潰瘍が実質的に唯一の潰瘍の原因といってよく、その治療、再発阻止にはPPI併用が重要である。

胃癌に関しては、生来ピロリ陰性例では噴門部胃癌を除いて稀であり、近々胃癌検診から外される方向にある。さらにピロリ除菌による胃癌予防効果についても、全国多施設試験でピロリ除菌は異時多発胃癌発症が三分の一に抑制することが判明した。その効果は若年除菌でより有用だが、高齢者ではNSAIDs、LDA服用による胃粘膜障害を軽減できること、除菌薬副作用が非高齢者に比して差がない事から、年齢に関わらず全てのピロリ感染者を除菌すべきであるとガイドラインに明記された。潰瘍以外の保険適応がない本邦ではあるが、ピロリ陽性者を見過さず、自由診療を含めて治療すべきであり、クリニックでは実践している。内視鏡検査時の「異常なし」は、生来のピロリ陰性例に対して使用すべきであり、潰瘍、癌、ポリープがなくともピロリ感染による慢性(萎縮性)胃炎は疾病であるという認識をあらたにしなければいけない。

ライフスタイル欧米化、ピロリ非感染、ピロリ除菌は、酸分泌亢進の要因であり、酸抑制が重要な時代に入った。H2RA、PPIの特性を熟知し、使い分ける必要がある。
        PPI    H2RA
原薬酸安定性  ×     ○   腸溶錠のPPIでは粉砕投与できない
肝代謝     大  >  小   PPIではCYPの関与
腎排泄     小  <  大   H2RAでは腎機能低下で投与量調整要
作用発現    遅     速
耐性      無     有
(青山伸郎 他 臨床消化器内科 20:1102、2005より改変)




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