平成21年2月28日
「iPS細胞は臓器再生に応用可能か?−腎臓を中心にー」
大阪大学大学院医学系研究科 先端移植基盤医療学 老年・腎臓内科学 准教授 猪阪善隆先生
 現在、多くの研究者が腎臓の再生を目指して研究を進めているものの、最も再生医療の困難な臓器のひとつが腎臓であることは、衆目の一致するところである。腎臓は非常に複雑な機能をもった臓器であるが、何より腎臓では、血管が単なる栄養血管ではなく、糸球体上皮細胞やメサンジウム細胞と協調して糸球体濾過という機能を担っている機能血管であるという事実が腎臓の再生研究を困難なものにしている。また、再生を考慮した場合、臓器の大きさも、大きなハードルとなる。再生医療には細胞の寿命(分裂可能回数)ということを常に考慮する必要があるからである。
 腎臓を再生するには、個体内の臓器を再生する方法と、体外でクローン臓器あるいは組織を作成した後、体内に戻す方法とが考えられるが、現時点では、基本構築が少しでも残存するネフロンに働きかけて、解剖学的構築と機能を回復させるアプローチが現実的であり、幹細胞や前駆細胞あるいは骨髄細胞やSide Population(SP)細胞、あるいは山中教授により報告されたiPS細胞の細胞移植が有効な手段となりうる。iPS細胞については、当初問題であった腫瘍化などの安全性については、かなり克服されつつある。ただし、細胞移植を考える上で、移植のためのルート、移植時期など問題点はまだまだ多い。さらに、前述したような寿命・腫瘍化の制御が大きなハードルである。
 一方、シート工学やバイオプリンティング技術の進歩、器官培養方法の開発などにより、クローン臓器あるいは組織の移植も現実のものとなりうるかもしれない。iPS細胞を腎臓の構成細胞、あるいはその前駆細胞、さらにはクローン臓器まで分化させるとともに、再生因子やテロメレースの遺伝子導入により、残存臓器の再生を促進したり、細胞寿命を延長したりすることも有効な手段となりうる可能性がある。また、自殺遺伝子の導入により、より安全な再生医療が実現すると考えられる。

   



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