平成21年5月30日
「COPD診療の最前線」
京都大学医学研究科 呼吸器内科学教授 三嶋 理晃先生
  COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、タバコ・大気汚染などが原因となって、慢性に進行する閉塞性換気障害を特徴とするものである。COPDの病期は閉塞性障害の指標である1秒量の予測値に対する比でTからW期に分類される。治療はこの病期に準じて症状などを勘案しながらアドオンの原則で行われる。禁煙など原因物質からの回避、インフルエンザワクチンの接種がすべての病期に共通するものであり、重症度が進行するに従って長期作動型気管支拡張薬の投与、リハビリテーション、吸入ステロイドの投与(増悪を繰り返す時)などの治療が加わる。最近、長期作動型抗コリン薬(スピリーバ)や長期作動型β2刺激薬とステロイド薬の合剤吸入薬が開発され、増悪頻度やHRQOLの改善のみならず、延命効果が存在することも報告されつつある。
 増悪の原因の九〇%は感染であるが、気胸や睡眠薬などの薬物に起因する増悪の可能性に注意を要する。X線平面像では肺気腫がある場合に肺炎の診断が困難であり、わずかな気胸でもCOPDでは重篤な呼吸不全の原因となることがあるため、X線CTが威力を発揮することが多い。増悪時に薬物の増量をしても改善しない場合は入院の適応である。
 「COPDは全身疾患」であり、多くの併存症を有する。うつ病・認知症などの高次脳機能障害、高血圧・虚血性心疾患、消化性潰瘍・胃食道逆流(GERD)
などの消化器障害、糖尿病・骨粗しょう症・体重減少などの代謝障害、睡眠障害などが、同年代の非COPD群に比較して高率に発生する。特に、GERDがあると増悪の頻度が増えること、肺気腫の程度と骨塩量や体重とは強い相関があることなどが証明されている。従って、COPDに対しては、その併存症も含めた包括的な治療が必要である。
 また、最近話題のiPS(induced puluripotent stem cell:誘導多能性幹細胞)は、肺気腫などの不可逆的な変化に陥った肺の再生医学としての役割を持つだけではなく、患者の皮膚から肺組織構成細胞を誘導することにより、COPDの病因の解明や、薬剤の開発、副作用の予見などに有力な手段となる可能性がある。
 COPDの国際的なガイドラインであるGOLD(global initiative for obstructive lung disease)に記載されているように、今や“COPD is a preventable and treatable disease”といわれる時代になりつつある。



   



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