平成21年7月25日
「胃癌の標準的治療」
天理よろづ相談所病院 腹部一般外科部長 吉村 玄浩先生
  ここでいう「標準的」とは、エビデンスに基づいた、もっとも妥当と思われる治療法の意味であり、最近外科系各学会からガイドラインとして示されている治療内容をさす。ガイドラインができたことで、外科医には客観的基準に基づいた治療方針の選択が可能になり、患者はどの医療施設でも同じ診療方針で医療を受けることができるようになった。
 胃癌の五年生存率は病期(stage)が進むほどに低下する。最近さまざまな化学療法が開発され、かなり効果の高い治療が可能になった。一方、治癒する可能性の高い早期胃癌には、より低侵襲な治療が開発されている。ESDや腹腔鏡下胃切除術は術後の回復が早く、早期の退院が可能である。
 治療方針は病期をもとに決定され、治療前に病期を決定する必要がある。癌の進展はT(壁深達度)、N(リンパ節転移)、M(他臓器転移)の各因子を組み合わせて決定されるが、壁深達度の評価には内視鏡検査と胃透視が用いられ、転移の評価にはCTが用いられる。
 現在でも胃癌治療の第一選択は胃切除である。日本では2群リンパ節郭清が基本である。より進行した胃癌には、拡大郭清よりも化学療法が推奨される。
 手術不能進行癌再発胃癌に対する化学療法には、単剤では5−FU系の薬剤、イリノテカン、タキサンなど、併用化学療法では、5−FU製剤、シスプラチン、イリノテカンなどが用いられる。現在主としてS−1が用いられ、進行胃癌に対する化学療法はS−1+CDDPが第一選択である。また術後補助化学療法はS−1が標準となっている。
 一方、リンパ節転移のない早期胃癌に対してはESDの開発が進んでいる。ESDは腫瘍を含めて粘膜下組織を剥離する内視鏡を用いた手術である。
 ESDの適応にならない早期胃癌には腹腔鏡下切除が適応である。腹腔鏡手術はリンパ節郭清範囲の縮小手術であり、我々の施設では、D1+βの郭清を行っている。
 DPCが導入された場合、術前検査、治療方針の確定と説明と同意の取得までを外来で行わなければならない。消化器内科や放射線科との密な協調が必要である。現在我々の施設では、来院から数日間に内視鏡検査とCT、超音波、全身状態の把握を目的とした諸検査を完了する。その後、消化器内科、放射線科との合同カンファレンスで治療方針の確定を行い、できるだけ早く精確な治療方針を患者に伝えるような仕組み作りを行っている。





   



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