平成21年11月28日
「慢性創傷の取扱い―局所処置と当院(創傷・褥瘡対策チーム)の取り組みについて―」
天理よろづ相談所病院 形成外科部長 山脇 吉朗先生
 慢性創傷、特に褥瘡について次の五つにフォーカスをしぼって説明致します。
(1)慢性創傷とは何か
(2)なぜ治らないのか(moist wound healingと褥瘡の浸出液について)
(3)治すためには「どんな局所処置をすればよいのか」
(4)最近広まりつつある「VAC療法とは何か」

(1)慢性創傷とは
急性創傷とは「創傷治癒過程が順序良く、タイムリーに進行し、正常な構造と機能の持続する回復が起こるもの」をいい、慢性創傷とは「何らかの原因で治癒しにくい創、妥当な期間内に治癒しない創、創傷治癒過程に問題のある創」をいいます。慢性創傷の代表例が「褥瘡」です。

(2)慢性創傷はなぜ治らないのか
  正常な創傷治癒過程は大別すると、出血・凝固期、炎症期、合成・増殖期、静止期の四つの過程を辿ります。
  炎症期から合成・増殖期に入るときに、細胞外マトリックスを分解する酵素MMP(Matrix metalloproteinase)と、その働きを阻害する酵素TIMP(Tissue inhibitor of metalloproteinase)が関与します。
  急性創傷ではこのふたつがバランス良く分泌されることで治癒の過程に至っていますが、慢性創傷では、炎症が長引くことによってサイトカインが創傷の浸出液中に増加し相対的にMMPが過剰な状態になり創治癒を阻害しているのです。
  この浸出液の過不足を是正することが創傷治癒に重要です。
  同時に、物理的にも過剰な浸出液の貯留は毛細血管や静脈の後負荷を増やし、酸素や栄養の供給を妨げ、創治癒阻害に働きます。
  すなわち、浸出液を適度にコントロールすることが、慢性創傷に二次治癒を促す手段となると言えます。

(3)局所処置
  大前提として「徐圧・免荷」をした上で、次の順序で局所処置をします。
  @壊死組織の除去、A炎症・感染の制御、B浸出液のコントロール、C良性肉芽組織の促進、です。
  @ まず、壊死組織の除去ですが、黒色壊死組織が付着している場合は外
科的デブリードマンが適しています。ベッドサイドではさみを使って新鮮な創面ができるまで切除します。
    白色壊死の場合は、外科的デブリードマンでも良いのですが、軟膏に
よる化学的デブリードマンが可能です。ブロメライン軟膏、リフラップ軟膏、グラニュゲルなどを使用し、徐々に壊死組織を溶解させます。
  A 次に、炎症・感染の制御です。
    大事なのは「充分に洗う」ことです。開放創になっていれば水道水で
構いません。
    市販されている石けんで良いのでよく泡立てて創と創周囲を丁寧に洗います。不特定多数の人が入るところでなければ、風呂も構いません。
    感染制御のためによく使う外用薬は、ゲーベン・クリームとイソジン系統のカデックス、ユーパスタ、イソジンゲル、などです。
  B 浸出液のコントロールは外用剤と併用する創傷被覆剤で行います。
    ハイドロサイト、ティエール、デュオアクティブなどを浸出液の量によって使い分けます。Critical colonization(局所に細菌が存在するが活動的ではない)の状態に対しては銀イオンの入ったハイドロファイバーの効果が期待されています。ガーゼは創面を乾燥状態にする傾向が強く注意が必要です。フィルム材のテガダームやパームエイドはODTの二次ドレッシングに使うことが多いですが、感染兆候がなく、浅い創の場合は、浸出液の保持という目的で単独使用も可能です。
  C 最後に良性肉芽の増生を促します。
    フィブラスト・スプレーは血管新生作用もあり、他の外用剤や後述するVAC療法との併用も可能です。プロスタンディン軟膏はODTを併用することが多いです。アクトシン軟膏は創部をやや乾燥気味に保ち、また、真皮露出部には痛み刺激となることがあります。それぞれ創面に応じた使い分けが必要です。

(4)VAC療法とは
  さて、上記治療過程のA炎症・感染の制御、B浸出液のコントロール、C
良性肉芽組織の促進、をひとつの方法で解決可能な方法が、VAC(vacuum assisted closure;陰圧閉鎖法)療法です。適応を誤らなければ治療効果の高い方法です。
創部に陰圧をかけることで肉芽増殖・創縮小を促進し、急性創傷はもとより軽度の感染を伴った慢性創傷にも対応可能です。
VAC療法に使用する道具ですが、アメリカのKCI社がVACsystemとして製品化していますが、手元の道具(陰圧ドレーン、ポリウレタンフォーム、歯科用印象材、フィルムドレッシング、テープなど)で代用しています。
褥瘡の形に合わせてポリウレタンフォームを切り創の上に置き、小さな孔を開けて陰圧ドレーンのチューブの先端を挿入、陰圧が保持されるようにこの上からフィルムドレッシング材を貼って密閉します。ベッドサイドに配管されている吸引装置につなげるか、または外科手術で使用する陰圧ドレーンを使って陰圧をかけます。
VAC療法の長所は1.軽度の感染を伴う褥瘡でも有効、2.人的・経済的コスト削減効果(1回/週程度の交換)、問題点として1.褥瘡の発生部位によっては陰圧の保持が難しい、2.125mmHg以上では局所に疼痛を訴えることもある、3.使用する器材のコストがとれない、技術料がとれない、などが挙げられます。
治療メカニズムは「過剰な浸出液の除去(⇒wound moist healingを保ちながら、過剰な浸出液を除去)」と「組織に機械的応力を加えること(⇒血管新生や組織増殖につながる)」のふたつと考えられています。

最後に、褥瘡治療の基本的な考え方を示します。
まずは、徐圧です。次に保存的治療、外用剤やVACを駆使します。
どうしても必要ならば手術を検討しますが、通常はデブリードマン程度に留めているのが実状です。

以上、慢性創傷についてお話させていただきました。





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