平成22年1月30日
「慢性期脳梗塞の治療戦略」―特に抗血栓療法について―
東海大学医学部 内科学系 神経内科教授 瀧澤 俊也先生
  ここ二十年余において、脳梗塞の病型の割合は変化してきている。東海大学医学部神経内科においては、以前は脳梗塞全体の五二%を占めていたラクナ梗塞は一九%に半減し、二八%ほどであったアテローム血栓症は二〇〇五年〜二〇〇七年には全体の五〇%以上を占めるほどに急増した。このような変化には日本人の食生活の欧米化、減塩食の浸透、降圧薬など内科的加療の普及などの関与が推察される。
 アテローム血栓症脳梗塞の再発予防には、その血栓の病態成因に基づき抗血小板薬が推奨されている。抗血小板薬の選択は、患者ごとの血小板凝集能の結果による処方が最良ではある。しかしどこの施設でも凝集能検査が可能ではないので、現実的にはエビデンスに基づいて各血小板薬の利点や欠点を考慮して選択すべきである。特に二〇〇九年末に発表された脳卒中ガイドラインに準拠した治療選択は望ましいと考えられる。アテローム血栓性脳梗塞の再発予防にはクロピドグレルは優れた有効性を有し、アスピリンとともにグレードAに評価されている。また、抗血小板薬は単剤投与を基本とすることが出血を最小限にとどめる上でも有用であることが示されている。
 ラクナ梗塞の再発予防に関しては従来充分なエビデンスが示されていなかった。我々が解析した神奈川県の十四施設によるレトロスペクティブ研究では、チエノピリジン系抗血小板薬を主体とした治療による脳梗塞再発抑制効果が示された。一方で、T2*MRI撮像による脳内微小出血合併例に対しては抗血小板薬の慎重な投与が必要である。
 抗凝固・抗血小板薬の休薬はしばしば臨床上依頼を受けるが、脳血管障害の再発などの高いリスクが伴うことを忘れてはならない。基本的に抗凝固・抗血小板薬は直視下処置では継続投与とし、大手術や内視鏡下の危険手技ではガイドラインに沿って休薬することが望ましい。






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