平成22年5月29日
「血管内プラークイメージングに基づく動脈硬化退縮の評価と治療戦略」
国立循環器病研究センター 臨床研究企画室 室長 朝倉 正紀先生
近年、動脈硬化の進展が軽度であっても、心血管イベントが発症すると言われており、実際に狭窄度が軽度〜中等度の例で急性冠症候群(ACS)を発症することが大半であることが明らかとなっている。また、狭窄度が五〇%未満では、運動負担試験を行っても心電図異常を示さないため、PCIは施行されない。PCIの対象となる高度狭窄はわずか十数%という報告もあり、PCIでACS発症の予防可能な症例はわずかである。

冠動脈造影のように血管内腔の陰影をみるだけでは、狭窄の程度は評価できても、血管壁の形や性状、プラークや血栓の存在までは正確に把握出来ない。血管内超音波検査(IVUS)はプラークの量は測定できるが、血管内膜の状態は分らない。一方、血管内視鏡は血管内膜の状態は評価できるが、プラークの量は判別できない。従って血管内を十分に評価するためには、複数の診断技術を組み合わせることが必要である。

ACS発症患者の冠動脈において、破綻したプラーク以外に存在するプラーク個数を、IVUSを用いて検討した結果、八〇%の患者に責任病変以外のプラークの存在が複数確認されている。そのため、ACS再発予防のためにはPCIによる冠動脈の局所治療のみならず、薬物による冠動脈全体の治療が望まれる。

薬物療法によるACSの発症予防はプラークの進展を防ぐことが重要である。最近ではスタチンによる積極的な脂質コントロールにより、プラークの進展抑制及び退縮が可能であることが報告されている。しかし、これまで日本人においてスタチンによる冠動脈プラークの体積変化が検討された報告は、対象がすべてACS患者であった。従って、日本人で初の慢性期冠動脈疾患患者を対象としたCOSMOS試験でもプラークの退縮が認められたという結果は、より多くの日常臨床にフィードバックできる意味深いものと考えられる。







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