平成22年6月26日 |
「うつ病のプライマリケア」 |
奈良県立医科大学 精神医学講座教授 岸本 年史先生 |
病態 うつ病性障害には大うつ病性障害と気分変調性障害が含まれる。気分変調性障害は比較的軽い抑うつ気分の持続である。大うつ病の主な症状は基本症状として一日中続く抑うつ気分・興味や喜びの喪失があり、意欲減退に伴い食欲不振・体重減少がみられ、無価値感・現実喪失感・罪責感・思考制止・集中困難・不安・焦燥・不眠・自殺念慮・自殺企図などが出現する。過度な罪責感から二次妄想である罪業妄想・貧困妄想などの微小妄想もみられることがある。 鑑別診断 ステロイド投与、インターフェロン投与などによりうつ状態を呈することがある。また、身体疾患として甲状腺機能低下症、多発性硬化症、クッシング症侯群、脳卒中などでうつ状態を呈する。 治療 最初に適切な治療を行えば治る病気であることを説明する。治療を行ううえで必要なことは休息であり、程度によるが基本的に仕事なども休ませる。回復に要する期間は個人差があるが、半年程度と伝える。 精神療法 激励することは患者をさらに追い込むことになるので厳禁である。診察は患者の話を傾聴し、支持的に行う。また、うつ病という誰もがなり得る病気のせいで気分が落ち込んでいるわけであり、良くなる病気であると説明し、そのうえで自殺などは行わないように約束させる。 身体治療 食欲低下から極度のるいそうのことがあるので、食事の開始には十分注意する。また精神症状が悪いために食事や水分を摂取できない場合には、点滴などを行う。 入院適応 精神症状のため食事が摂られていない場合や希死念慮が強く自殺や自傷の可能性が高い場合、精神病症状がみられる場合などが入院適応と考えられる。多くの場合、病識は欠如しているか極めて乏しい。 薬物療法 うつ病では九〇%以上に不眠を認めるため、睡眠薬の併用を行う場合が多い。うつ病寛解後は再発防止が治療の主眼となる。正確なデータはないが再発のリスクを下げるため、寛解後六か月〜二年間は少なくとも服薬を続けるように指導する。うつ病になると再発する可能性は高く、二回目以降はさらに高くなる。三回以上うつ病相を経験した患者には生涯にわたって服薬するよう指導する方がよい。 抗うつ薬として下記のいずれかひとつだけを使用し、低用量から開始する。睡眠薬を除けば基本的に他の薬剤併用なしで下記の薬剤1種類のみで治療できる。 処方例 パキシル(10mg)1〜4錠 分1(十八歳未満には注意) ルボックス(25mg)2〜6錠 分2 トレドミン(25mg)2〜6錠 分2 ジェイゾロフト(25mg)1〜4錠 分1 サインバルタ(20mg)2〜3C 分1 リフレックス・レメロン(15mg)1〜3錠 分1 ※高齢者にはより少なめから処方する。治療に反応しないときには増量する。副作用が出現すれば、程度により中止あるいは変更を考慮する。 ※不眠症状がほとんどでみられるため、サイレース(2mg)1錠などの睡眠薬を併用する。 ※焦燥の強いときにはテトラミド、レスリン、ごく少量のレボトミンなどの抗 精神病薬を併用してもよい。 難治例の治療 難治例に対して麻酔科と協力して修正型電気痙攣療法(m-ECT)を行ったり、抗うつ薬を三環系抗うつ薬に変更、リチウムや甲状腺末の併用も考慮する。 |
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