平成23年1月29日
「不眠へのアプローチ〜精神科医の立場から」
天理よろづ相談所病院 精神神経科部長 苗村 敏先生
 不眠を訴える患者さんについて、その症状にどうアプローチするかということについてお話します。
 不眠という症状は多分に主観的なもので、六、七時間の睡眠でも十分と感じる人もあれば不十分と感じる人もあります。何時間眠ったかというよりも睡眠が十分と感じているかどうかということが問題になります。不眠のタイプには、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害の四つがあります。
 また、不眠は最近ではうつ病の症状として、自殺予防の観点からも注目されています。自殺の危険が大きい不眠は、青年世代の不眠、中高年の不眠、常習飲酒者の不眠、独居高齢者の不眠です。
 さて不眠を訴える患者さんに対してどうアプローチしていくかですが、患者さんの言う「眠れない」とは具体的にどういうことか、眠れないと何が困るのか、患者さんの一日の生活のパターンの中で睡眠はどうなっているか、という三つのことを明らかにしていく必要があります。こうすることでどんなタイプの不眠か、何が原因か、ある程度見当がつくと考えます。
 不眠の原因は、身体的なもの(Physical)、生理的なもの(Physiologic)、心理的なもの(Psychological)、精神医学的なもの(Psychiatric)、薬理学的なもの(Pharmacologic)の五つに分離されます。5Pと覚えておくと便利です。睡眠に対する誤解や生活リズムの乱れが原因のことも多いと思われます。
 不眠の治療としては、まず原因疾患の治療、生活リズムを整えるための生活指導が必要です。睡眠のメカニズムには、疲れたから寝るというメカニズムと夜になったから寝るという二つのメカニズムが働いていて、後者のメカニズムを働かせることも大切です。眠れない不安がさらに不眠に結び付くため、この不安をとるために薬物療法が必要です。現在の睡眠薬はベンゾジアゼピン系が中心ですが、持続時間や筋弛緩作用の強さなどを考えて使い分けていく必要があります。副作用としては、持ち越し効果、反跳性不眠、転倒、耐性の獲得と依存、健忘などがあります。特に処方するにあたって依存と乱用には注意が必要でその危険の高い患者さんを見分ける努力が必要です。




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