平成23年2月26日 |
「インクレチン製剤の特徴〜シタグリプチンの使用経験から」 |
北野病院 糖尿病内分泌センター副部長 浜本 芳之先生 |
インクレチンは、腸管から分泌され血糖依存性にインスリン分泌を増強するが、それ以外にもグルカゴンの分泌抑制や胃排泄の抑制、中枢における食欲の抑制など様々な作用をもち、栄養素の摂取から代謝に到るまでの様々な段階のおいて重要な役割を演じていると考えられている。このインクレチンを2型糖尿病の治療薬とした薬剤が開発され、二〇〇九年末より我が国でも初のインクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬のシタグリプチンの臨床応用が可能になった。インクレチンシステムを利用した治療薬は、従来の2型糖尿病治療の欠点を補う新しい治療薬として脚光を浴びている。その特徴として、インクレチンは低血糖を起こしにくいこと、体重増加をきたしにくいこと、β細胞の増殖促進・アポトーシス抑制作用など、β細胞量の維持・増加作用が期待できる点などがある。したがって、インクレチン薬は長期的にこうした効果があることが証明されれば、糖尿病治療のパラダイムシフトを起こす可能性を秘めた薬剤といえる。シタグリプチンは一日一回の内服により、良好な血糖改善効果を発揮し、単剤で使用しても、他剤と併用してもほぼ同等のHbA1c低下作用が得られるほか、特にスルホニル尿素薬(SU薬)と組み合わせるとより強い効果が得られる。自験例一一〇例をもとにシタグリプチンについて解析した結果では、シタグリプチンは開始時のHbA1cが高いほど効果も高かったが、肥満症例でも非肥満症例でも効果に差は見られず、男女差も見られなかった。また、年齢は罹病期間や残存機能性β細胞量とある程度相関していると考えられるが、シタグリプチン投与開始年齢と血糖降下作用との間も明らかな関連を認めなかった。内因性インスリン分泌が著明に低下した症例では効果は期待できないが、ある程度インスリン分泌能が残存している症例では、頻用されているSU薬に追加することによって血糖コントロールの改善が期待できることから、「次の一手」としてインスリン導入を遅らせる効果も期待できる。ただし、インクレチン薬全般に薬剤の組み合わせによっては予期せぬ低血糖のリスクも存在することから、注意が必要である。インクレチン薬の作用機序にはいまだ不明な点もあり、著効例・無効例などのさらなる検討が必要ではあるものの、シタグリプチンは第二のSU薬とも言える高い有効率と強い血糖降下作用を示したことから、多数の2型糖尿病症例に適応があると考えられる。β細胞に対する保護・増殖作用や、様々な膵外作用を介した食欲や体重などに対する抑制効果、心血管系に対する抗動脈硬化作用など、動物実験で報告されている作用が臨床的にヒトにおいて証明されれば、2型糖尿病治療の第一選択薬となっていくと考えられる。今後も臨床的、基礎的知見のさらなる蓄積が望まれる。 |
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