平成23年10月29日 |
「危険因子としての高尿酸血症―CKD及びCVDとの関係から最新の尿酸降下療法まで」 |
東京薬科大学 病態生理学教室教授 市田 公美先生 |
痛風患者は徐々に増加し、現在約九十八万人、痛風の背景にある高尿酸血症患者数はその十倍と推計されている。高尿酸血症は、痛風や腎障害・尿路結石を来す基礎疾患として認識されてきた。しかし、最近になり慢性腎臓病(chronic
kidney disease・・CKD)の発症や進行を促進し、また動脈硬化進展に関与し心血管疾患(cardiovascular disease・・CVD)の危険因子となる可能性が示されてきた。 高尿酸血症では、腎臓において尿酸が析出・沈着し腎障害・尿路結石を引き起こすことが以前から知られていた。しかし、他の機序として、尿酸が直接またはインスリン抵抗性などを介して血管障害に関与し腎障害を引き起こすことも、最近明らかになってきた。また、尿酸降下薬により血清尿酸値を低下させる小規模な介入試験も行われ、血清尿酸値のコントロールが腎障害進行抑制に有効であることが示されつつある。しかし、尿酸降下薬を開始すべき血清尿酸値やコントロール目標値等の詳細は確定されていない。 一方、高尿酸血症がCVDの危険因子であるか否かについては、多くの検討がなされたが、一定の見解が得られていない。これは、血管に対する尿酸の直接的作用だけでなく間接的作用も存在し、高尿酸血症の血管に対する作用が複数存在するため、病態ごとに関係が異なるためと考えられる。しかし、CVDのハイリスク患者に関しては、高尿酸血症がCVDの危険因子であるとの報告が大勢を占めている。したがって、ハイリスク患者に関しては、介入試験の結果が集積されれば血清尿酸値を低下させるべきとの結論になる可能性はあるが、CVD回避のために尿酸降下薬使用は現時点では推奨されない。 以上のことから、現時点における高尿酸血症の治療は、基本的に痛風発症の危険性の観点からのみ行われている。尿酸降下薬は、急性痛風性関節炎の既往または痛風結節の存在、または血清尿酸値9.0mg/dl以上の無症候性高尿酸血症の条件を満たす場合に使用する。また、血清尿酸値8.0−9.0mg/dlの無症候性高尿酸血症の場合でも、腎障害、尿路結石、高血圧、虚血性心疾患、糖尿病やメタボリックシンドロームなどの合併症が存在する場合には、薬物治療を開始する場合がある。尿酸降下薬の選択は、尿酸産生過剰型高尿酸血症には尿酸産生抑制薬、尿酸排泄低下型高尿酸血症には尿酸排泄促進薬が基本となる。また、薬物治療を行う場合でも、高尿酸血症に対して飲酒や肥満是正などの指導を行う。 |
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