令和1年11月31日 |
「奈良県糖尿病性腎症重症化予防プログラムの運用について考える」 |
天理よろづ相談所病院 内分泌内科 林野 泰明先生 |
奈良県では糖尿病性腎症の重症化による人工透析への移行を防ぎ、県民の健康増進と医療費の増加抑制を図ることを目的として、糖尿病性腎症重症化予防プログラムが策定された。本プログラムに沿った腎症教育目的での当院への紹介は現時点では少数例であるが、天理地区医師会の先生方からご紹介された方が当院で受けている教育内容についてのご紹介、また腎症診療のピットフォールについて解説を行う。 腎症教育目的でご紹介いただいた一例目はeGFRが徐々に低下し六〇未満となった症例で、UACRも三〇〇以上であり、CKD分類ではG3aA3の症例であった。当院では尿路系の疾患を除外するために腹部超音波検査を行い、減塩食に関する栄養指導を行った。また、顕性蛋白尿の状態であり、元々服用されていたARBを最大容量まで増量した。元々当院で脳梗塞の治療歴、泌尿器科疾患の治療歴が有り、過去のデータを見直したが、二年前の手術まではeGFRの低下はなかったが、周術期に低下を認め、術後は横這いであった。周術期の造影検査、NSAIDsの使用によりAKIを生じ、その後CKDに至ったAKI to CKDの症例であることが明らかになった。当院受診歴の有る方の場合、かかりつけの先生の検査データと当院のデータを合わせ見ることにより病態を明らかにすることが出来るメリットが有ると思われた。二例目の方もCKD分類でG3aA3となり、ご紹介いただいた症例であった。この症例に対しては栄養指導を行い、更に腹部超音波検査、二次性高血圧のスクリーニング等を行ったが明らかな異常を認めなかった。シスタチンeGFRを評価すると七一・八mL/min/一・七三m2とG2ステージであることが明らかになり、多面的な評価の重要性が示唆された。 当院では糖尿病性腎症の患者で、特に高齢の方には厳格な蛋白制限を行っていない。糖尿病性腎症に対する蛋白制限はエビデンスが十分ではなく、厳格な蛋白制限は指導しても実際には患者が実施できないという側面もある。また、厳格な蛋白制限の効果を検討した研究はアウトカムをeGFRの低下の程度に置いていた。最近のCKD患者に対する研究で、高齢の場合厳格な蛋白制限を行うとeGFRの低下は抑えられるが、総死亡のリスクが増えるとの報告もあり、サルコペニアなどのリスクも考慮し、個々の患者の病態を見ながら適切な食事を選択することが重要であると思われる。 |
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