平成24年2月25日 |
「手指の外傷・熱傷と顔面外傷・・日常外来における診療の基本について」 |
大津赤十字病院 副院長 兼 形成外科部長 石川 浩三先生 |
はじめに 手の外傷(熱傷を含む)頻度は高く、どこの施設でも多くの患者が来院する。また、顔面外傷は整容的に気にされて相談に来ることがある。そこで、日常診療する際に必要な最低限の知識と注意点、あるいは処置のポイントと専門医に紹介する適応について述べた。 T 手の外傷 初診時診察のポイント (1)受傷機転(原因)の把握と受傷時間の問診・・受傷の状態や機械の種類で、ある程度損傷程度や重症度が予測できる。また、切断指の場合には、阻血時間が重要となる。 (2)血行障害(血管損傷)・・血流障害があれば、放置すると壊死になるので、緊急手術の適応である。 (3)知覚障害(神経損傷)・・指神経は純粋な知覚神経である。 (4)運動障害(運動神経あるいは筋腱損傷)・・手関節部では、正中神経と尺骨神経に運動神経が混じっている。 (5)変形(骨折、脱臼、腫脹)あるいは出血班・・患部には圧痛がある。 (6)X線撮影・・確定診断のために必要である。 骨折の診断 (1)腫脹、皮下出血、変形、末節骨骨折では爪下血腫 (2)骨折部の圧痛、介達痛 (3)Xp所見・・小児では骨端線と見間違えないこと。 腱損傷の診断 (1)安静時肢位の異常・・正常手指の安静時肢位は、軽度屈曲位で示指から小指に向かうにつれて次第に屈曲度が強くなる。ところが、腱が断裂するとこの肢位に異変が生じる。 (2)自動運動の欠落・・断裂した腱は自ら動かそうとしても動かない。 (3)指背側の切創では皮下組織が薄いため、伸筋腱まで切れることが多い。 血管(動脈)損傷の診断 (1)色調変化(チアノーゼ)・・阻血あるいは虚血の色調を呈する。 (2)毛細血管充満capillary refill(−)・・爪床あるいは指腹を圧迫すると白くなり、圧迫を除くと色調が元に戻れば正常、戻らなければ血行不良である。 (3)針穿刺による(−)・・出血の勢いと、血液の色調で判断する。 (4)冷感・・阻血あるいは虚血であれば、正常部位より冷たい。 手指動脈には伴行する神経があり、動脈に損傷があれば、隣接する神経も同時に損傷されることが多い。 神経損傷の診断 (1)知覚障害・・最も確実なものは痛覚で、痛みを感じるか否かである。 (2)運動障害・・前述したように、指神経には、運動神経は存在しない。手関節部で正中神経が断裂すると、母指球筋が麻痺して、対立運動ができなくなる。 (3)発汗の停止・・損傷された神経の支配領域の発汗が障害され、日ごとに皮膚が乾燥してかさかさになる。 (4)Tinel徴候・・神経の損傷部位を叩打すると、その支配領域に放痛散がある。極めて有用な診断法である。 手関節掌側部切創診察治療のポイント 動脈・神経・腱損傷の有無のチェックが大切で、損傷程度により、専門施設に紹介が必要となる。 (1)末梢の血流はあるか (2)知覚障害はあるか、あればその範囲はどこか (3)手内在筋(母指球筋・小指球筋・母指内転筋その他)の機能はあるか (4)指の屈曲は可能か(浅指・深指屈筋腱) (5)動脈性出血の対応処置・・手術あるいは処理を行うまでの間は、ガーゼ圧迫してその上から包帯で圧迫する。うまく圧迫すればほとんどの場合には止血できる。結紮処置をする場合には、上腕で駆血したほうが良い。 手指外傷のまとめ・・緊急手術の適応は (1)絶対適応は血行障害例のみ (2)それ以外は、一次創傷治癒後でも手術可能 U 手指熱傷の初期治療(局所処置) ステロイド軟膏(リンデロンVG軟膏)三日間 ⇒その後はアズノール軟膏かゲンタシン難航に切り替える びらん、皮膚潰瘍面にはソフラチュールなど使用 流水(水道水)による洗浄も適宜 ドレッシング・固定法 ■指間ガーゼ ■厚めのガーゼ・包帯(bulky dressing)⇒きつくならないように注意 ■必要ならシーネ固定 ■患肢挙上 手術時期の考え方 ■手指背側は、皮膚皮下組織が薄く、伸筋腱や関節が露出しやすい⇒V度なら早めの手術 ■手指掌側は、皮膚皮下組織が分厚い⇒保存療法で治る可能性が高い(ただし、瘢痕硬縮は生じるかも) 手術適応 ■三週間、軟膏療法して、なお治る見込みがない場合 ■V度(皮膚全層)熱傷の範囲が相当量ある場合 V 顔面外傷・・プライマリーケアとその後療法―きれいな傷痕(瘢痕)とは ■傷痕(瘢痕)の幅が狭い ■色素沈着がない ■ひきつれ(瘢痕拘縮)がない ■縫合糸痕がない ■凹凸がない 傷痕の幅 縫合法の工夫(皮膚真皮縫合と皮膚縫合・・死腔を作らず皮膚はやや盛り上げる) 色素沈着(外傷性刺青) ■異物を残さない⇒洗浄、ブラッシング 擦過創におけるアスファルト残留が多い ひきつれ、変形 顔面は血流が良いので、剥離・挫滅された皮膚でも、壊死になりにくい ■複雑な皮膚損傷は、できる限り元の位置に戻して縫合する ■デブリードマンは必要にして最小限にする 縫合糸痕 絹糸、撚り糸、太い糸、きつすぎる縫合は避ける⇒瘢痕化しやすい ■皮膚縫合糸⇒5-0、6-0、7-0針付きナイロン糸 ■皮下あるいは真皮縫合⇒できれば5-0か6-0針付き吸収糸たとえばPDS ■きつく縫合しない 凹凸変形 後療法で、スポンジ圧迫(レストン)が有効・・ただし瘢痕が成熟するまでの三ヵ月間 ドレッシング法 ■ガーゼに創が固着しないこと(ガーゼ交換の際に出血させない)⇒非固着性ガーゼ(ソフラチュール・アダプティック)や軟膏(ゲンタシン軟膏など) ■創部からの出血や浸出液をうまく吸い取らせる⇒生食に浸した綿花 最後に 熱心に多くのご質問を頂きありがとうございました。天理地区医師会の益々のご発展をお祈り申し上げます。また、お招きいただきました会長の友永先生、座長の労をお取りくださいました張田先生、ご参加いただいた会員の諸先生方に深謝いたします。 |
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