平成24年3月24日 |
「一般臨床医に役立つ皮膚科の知識」 -特に疥癬虫退治と高齢者の痒み対策について- |
鹿児島大学名誉教授 公益財団法人慈愛会今村病院分院 皮膚科 神崎 保先生 |
はじめに 出席者の大部分は皮膚科を専門にされていない先生方と考えました(結果的にお一人の皮膚科専門医の方がおられました)。そこでむつかしい話は、聞く時はおもしろくてもすぐ忘れてしまう傾向がありますので、簡単な話を面白くアレンジして(?)、先生方の診療にすぐお役に立てるような話を心掛けました。 話しの内容は下記の二つで、一見(聞)非常識に見える(聞える)けれども、実はそれが正しいと考えられる事に重点をおいて、お話ししました。それを知らないと、いくら抗疥癬薬を服用させても、全ての虫を殺すことはできません。その詳しい内容は本文ではあえて書きませんので、疥癬の治療に困っておられる先生方は、当日出席された先生方からお話しをお聞き頂ければ幸いです。 二つ目は高齢者の痒みの治療です。これは私達皮膚科の専門医でも苦労します。話のエッセンスは、『原因』は何か?と言う様な高等な話しではなく、安上がりで、簡単で、副作用が少なく、かつ良く効く方法を紹介しました。 T 疥癬虫退治 疥癬の治療には日本皮膚科学会が作った「疥癬診察ガイドライン」(日皮会誌,117:1-13,2007)があります。私もこのガイドライン策定委員会の委員の一人です。私の疥癬の治療法もこのガイドラインにかなり沿った方法で行っています。しかし、「かなり」と書きました様に、一〇〇%これと同一の方法ではありません。私なりに、別の方法がより良いと考えられる点が、少なからずあるからです。 余談を少し。世の中には大変多くの各種のガイドラインがあります。現場の臨床医はどの程度このガイドラインの内容に忠実でなければならないのでしょうか?策定される先生方は大学のエライ先生が殆どかと思います。流石に何事においても良く御存知で、「俺達の言う事を聞かない医者はロクでもない医者だ」などと言う雰囲気のある委員も、時には見られます。山登りをする時は、山のガイドさんの案内に沿って登るのが原則です。しかし、山に登る人の体力、考え方、興味、登山ルート等々は、登る人の全ての人で異なっていると思います。数ある登り方(ルート)の中で自分の好みに合った方法で登るのが一番良いのではないかと思います。勿論それには大小のリスクを伴う事は当然です。私は医療の中のガイドラインもその様なもので、そのガイドラインを参考にしながら、自分の知識と経験を合わせて、自分なりの検査と治療をします。即ち、私は診療における医師の裁量権を行使しています。各ガイドラインの初めに、この事を明記しているガイドラインにはお目にかかった事がありません。良心的と思えるガイドラインには、その末尾に、(1)『このガイドラインは医師の裁量権を侵すものではない』、(2)『このガイドラインの記載内容を法廷で、「ガイドラインにこう書いてあったから・・・」とか、「ガイドラインできちんと言われているにもかかわらず・・・」とか、引き合いに出される筋合いのものではない』、と記載されています。これらガイドラインの取り扱いについて、日本医師会も公式な見解を出すべきかと思います。(すでに出ているのなら失礼しました!)。 さて本論に戻ります。疥癬の内服薬による治療の成功率は一般的に七〇〜八〇%と言われています。二〇〜三〇%の疥癬は治らない(?)と言うことを意味しています。私の老健施設での治癒率は一〇〇%近く(治らない人が居ないくらい)です。何でそんなに違うのでしょうか?それは、(1)内服薬がいかに吸収されるか、(2)いかに皮膚に出て来るか、(3)いかに虫を殺すか、そして(4)殺し残りはどうするか、を知っていれば、一〇〇%近く一発(この場合は一髪ではなく)で治ります(詳しくは、当日の御参加の方にお尋ね下さい)。 U 高齢者の痒み 痒みには幼児から高齢者まで、患者を非常に悩ませます。そして、高齢者には高齢者特有の痒みの原因があります。今回は高齢者に的を絞ってお話ししました。 (1)皮膚病変がないにもかかわらず、盛んに痒がる人。末梢性でなく中枢神経性の痒みもある事。本人は痒くも何ともないのだけれど、クセ(痴呆)で体を左右に揺すっているだけの人。これを他人(介護の方)から見ると、一見痒がっているように見え、これに対し私は「これは本人は痒がって体を揺すっているのではない」と介護の人にいくら説明しても、介護の人にそれを理解する能力のない人もおられる事。時には介護の人に痒み止めの薬(鎮静剤)を処方したいと思う事もあります。 (2)皮膚病変にステロイド外用薬を塗る事も多いです。ステロイド剤には強いものから弱いものまで色々ある事、またヒトの体で塗って良い所と塗ってはいけない所がある事、などについてお話ししました(詳細は当日参加の方にお聞き下さい)。 (3)痒み止めの薬。色々ありますが、鎮静作用のある薬もありますので、痴呆が入っている人への処方には要注意。 (4)陰部掻痒症への対策やスキン・ケア(これは本当はむつかしい事でも何でもなく、常識的に皮膚をキレイにすること事)についてもお話ししました。 おわりに 私の拙い話に対し、沢山の質問を頂き二時間ばかり費やしました。私としては大変楽しい二時間でした。どうも有難うございました。天理市の後、私の永年の夢でした飛鳥を訪れました。二日間でしたが、ものすごく楽しい旅になりました。人々はみんな親切で、子供達は大変礼儀正しく、私達(女房も)に元気良く「今日は」と言ってくれました。私の故郷の島根県の田舎の子供達もまだこの様ですので、まだ日本にも良い所が残っているのだと思い嬉しくなりました。日本や世界の多くを旅し、すばらしい風景、美術館・博物館、ミュージカル・オペラなどを見て来ましたが、飛鳥での二日間の散歩は村全体が一三〇〇年前の古代の博物館となっており、久し振りに「旅して良かったな〜」と思いました。この次は人出の少ない、桜の咲く少し前の吉野を散策してみたいなどと考え、鹿児島に無事帰りました。皆様、本当に有難うございました。 |
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