平成24年9月29日
「小児のけいれん〜明日からの診療に役立つ知識〜」
奈良県立医科大学小児科 助教  榊原 崇文先生
はじめに
 小児科一般外来では、年齢に特徴的なけいれんあるいは非けいれん性の発作性神経疾患を診察する機会は多い。また、一般診療で処方する薬剤の中には、けいれん閾値を低下させる薬剤もあり注意が必要である。日常診療でもっともよく遭遇する熱性けいれん、てんかんと鑑別を要する疾患、そしてけいれんを起こしやすい薬物についても述べる。

1.熱性けいれん(Febrile seizure:Fs)
 定義・・Fsは、通常三八度以上の発熱に伴って乳幼児期に生じる発作性疾患(けいれん、非けいれん性発作を含む)で、中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作の原因疾患(異常)のないものをいう。1)Fsの本邦における有病率は、保健所での乳幼児健診や小学校での学童検診では七〜八%とされ、欧米の二〜五%に比べ多く頻度の高い疾患である。定義に示されるようにFsは、発熱に伴うけいれん性疾患の中で除外診断により診断される疾患であり、様々な疾患との鑑別が必要である。また、Fsを起こした児への介入や両親への説明・指導については、一九九六年に福山らが熱性けいれんの定義・有病率、プライマリケア、予後、要注意因子、再発予防、解熱薬の使い方、予防接種、両親・保護者への指導の要点の八項目からなる熱性けいれんの指導ガイドライン1)を示しており、一度は原著を参照いただきたい。ここではガイドラインに示されているFs児へのFs予防の要点について示す。

表 熱性けいれんと鑑別すべき疾患                     

急性髄膜炎

急性脳炎・脳症

頭部外傷

低血糖・電解質異常

先天性代謝異常症(高アンモニア血症など)

てんかん(乳児重症ミオクロニーてんかんなど)

良性乳児けいれん(ロタウイルスなど)

脳血栓性静脈炎、川崎病など

循環器疾患(不整脈など)

神経皮膚症候群

脳腫瘍

白血病

など                     

 

 T.解熱薬
   Fs再発予防効果は認められていない
   解熱薬は、高熱による感じの苦痛緩和のために必要な場合に使用する
 U.ジアゼパム応急投与
   効果・・Fs再発率は約1/3に低下する
   適応・・@十五〜二〇分以上遷延する発作が、過去に一回でもあった場合
  A要注意因子が、二項目またはそれ以上が重複陽性で、過去に発作を二回以上経験している場合
  B短期間に発作が頻発する場合
   方法・・ジアゼパム座剤あるいは経口剤を〇・四〜〇・五r/s/回、三七・五度を超す発熱時に投与する。初
       回投与後八時間経過後もなお発熱が持続するときは、同量を追加投与してもよい。通常、二回投与
       で終了とする
   期間・・通常二年間、もしくは、四〜五歳までを目標とする
 V.抗けいれん薬連日持続内服療法
   効果・・ジアゼパム応急投与と同等の再発予防効果だが、てんかん発作の出現に対する予防効果は認めない
   適応・・@低熱性(三七度台)発作を二回または、それ以上起こした場合
       A十五〜二〇分以上の遷延性Fsの既往があり、かつ発作発現前の発熱に気付かず、ジアゼパム投与         のタイミングを失する可能性がある場合
       B十五〜二〇分以上の遷延性Fsの既往があり、発熱時ジアゼパム応急投与に拘わらず、同じ遷延性          Fsを生じた場合
   方法・・フェノバルビタール三〜五r/s/日あるいは、バルプロ酸二〇〜三〇r/s/日
   期間・・一〜二年間を目標とする
しかし、これらの予防法には、短期的な副作用だけでなく中長期的な副作用
(学童期の言語機能低下)2)などが報告されるようになり、その使用には、
適応を考慮し必要最小限にするべきである。

2.てんかんの鑑別診断
けいれん発作が出現した場合に、それがてんかん発作であるのか非てんかん発作であるのかを鑑別することは、不必要な抗てんかん薬投与の回避や適切な治療・管理のために必要である。特に致死的不整脈や低血糖発作などは、重い後遺障害につながる可能性が高くその鑑別は重要である。鑑別には、家族歴、年齢と発作症状を確認することが重要であり、普段の発作症状についてホームビデオで保護者とともに確認することやビデオ脳波モニタリングによる確認も有用である。

Age of onset

Disorder

Neonatal

(0-2months)

JitterinessBenign neonatal sleep myoclonus

Apnea etc

Infant

2-18months

Paroxysmal torticollisOpsoclonus-myoclonus

syndromeIntussusceptionBreath holding spells

Shuddering attacksShivering on urinationHead

bangingParoxysmal kinesigenic choreoathetosis

Gastroesophageal reflux etc

Toddler and

preschool age

(18months-5years)

Pavor nocturnusBenign paroxysmal vertigoAgitated

delirium with feverFamilial dystonic choreoathetosis

etc

School age and

preadolescence

(5-12years)

Simple ticsComplicated migraineInattention,

SomnambulismParoxsymal kinesigenic

choreoathetosis(familial)etc

Adolescence

Vertebrobasilar migraineSyncopeHyperventilation

syndromePsyhchogenic seizure etc

(小児てんかん診療マニュアル 改訂第二版 増補版 一部改変)

 


3.けいれんを起こしやすい薬物
  一九四〇年代から、抗ヒスタミン薬が、小児あるいはてんかん患者でまれにけいれん発作を引き起こすことが知られていた。また、一九九〇年代には、テオフィリン投与中のけいれん発作が報告されるようになりテオフィリン関連けいれんとして、小児気管支喘息治療・管理ガイドライン二〇〇五でもテオフィリンの投与に注意が促されている。てんかん治療ガイドラインにもてんかん閾値を下げる薬物(表3)3)が示されており、また最近てんかん又はその既往歴のある患者への投与が禁忌となった薬剤もあり、特に脳の発達が未熟な小児への投与には注意が必要である。

 

てんかん閾値を下げる薬物一覧

アルコール・バルビタール酸・ベンゾジアゼピン系薬物の離脱時

抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリン、軽度ながらSSRI

抗精神病薬(クロルプロマジンなど)

気管支拡張剤(アミノフィリン、テオフィリン)

抗菌薬(カルバペネム系抗菌薬、抗菌薬およびNSAIDとの併用)

局所麻酔薬(リドカイン)

鎮痛薬(フェンタニル、コカイン)

抗腫瘍薬(ビンクリスチン、メトトレキサート)

筋弛緩薬(バクロフェンなど)

抗ヒスタミン薬

(池田昭夫.神経・運動器疾患・・機能性疾患.井村裕夫編.わかりやすい内科学

第三版.東京.文光堂.二〇〇八.八二六〜八三七頁から改変引用)


最後に
諸先生方から熱心に多くのご質問を頂きありがとうございました。天理地区医師会の益々のご発展をお祈り申し上げます。また、ご指名いただきました会長の宮城先生、座長の労をお取り下さいました奥田先生、ご参加いただいた会員の諸先生方に深謝いたします。

参考文献
1)福山幸夫ら・・熱性けいれんの指導ガイドライン 
小児科臨床49:207-215,1996
2)Sultzbacher S.et al.:Late cognitive effects of early treatment with pehnobarbital.Clinc Pediatr38(7):387-394,1999
3)てんかん治療ガイドライン 2010 医学書院


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