平成25年1月26日
「高齢者の糖尿病を診る」
市立奈良病院 糖尿病内科部長 藪田 又弘先生
 

 現在わが国においては急速に高齢化が進行しており、社会的な問題となっている。高齢者の糖尿病を診療するに際し、心得ておくべきことを症例とともに解説する。
 高齢者糖尿病の特徴として、食後高血糖をきたしやすい、低血糖症状が非典型的である、合併症を有している患者が多いといった問題点がある。この様な症例を治療する場合、血糖コントロール目標をいかに設定するかは重要な課題である。近年ACCORD、ADVANCE、VADTといった2型糖尿病を対象とした大規模介入研究が実施され、厳格な血糖管理が心血管疾患の発症を抑止できなかったばかりか、ACCORDでは厳格な血糖管理が総死亡を増加させてしまった。さらに、低血糖は認知症の発症リスクを高めたり、転倒の要因になることが危惧されるようになった。そこで、高齢者の血糖コントロール目標は若年者より高く設定すべきであるという考え方がコンセンサスになりつつある。しかし、過去のエビデンスにおいて、有害事象に関連するのは厳格な血糖管理を目指した場合に出現する低血糖であり、SU薬やインスリンを血糖降下薬として使用した際には避けて通ることができない問題であった。最近DPP-4阻害薬のような低血糖リスクの低い薬剤が多く使用されるようになり、高齢者といえども若年者と同じくHbA1c六・九%という目標設定が可能であると考える。
 高齢者では低栄養や運動不足に伴う骨格筋の減少(Sarcopenia)が問題となることが多く注意が必要である。食事療法や運動療法については、当院の教育入院の症例を中心に管理栄養士、理学療法士の介入実例を提示する。
 経口薬療法に関しては、高齢者の病態に合った薬剤を選択することが重要である。すなわち、食後高血糖の是正、低血糖の回避、服薬回数の低減が可能な薬剤が望ましい。また高齢者は腎機能障害を有している症例が多く、このことに対する配慮が必要である。以上より、肝代謝型DPP-4阻害薬やαグルコシダーゼ阻害薬は高齢者に適した経口糖尿病薬といえる。
 インスリン療法は高齢者にとってハードルが高い治療法である。持効型アナログインスリンを使用し、一日一回の注射でコントロールすべきであろう。しかし、持効型アナログインスリンのみでは、食後血糖の制御が困難な場合が多く、当科ではDPP-4阻害薬、αグルコシダーゼ阻害薬、グリニドを併用することにより食後高血糖を回避している。
 認知症は近年わが国において増加が著しいが、糖尿病の合併症であるという認識を持つ必要がある。アルツハイマー病の発症にはインスリン抵抗性が関与するとされ、発症予防には若年時より生活習慣の改善が重要である。認知症を発症した場合、血糖変動の抑制や高血圧、脂質異常の改善が進行抑制に有効であるとされている。


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