寝たきりや要介護の原因としての骨折の重要性はよく知られているが、大腿骨や椎体骨折後の死亡リスクが六・七、八・六倍増加するとの報告もあり、骨折対策は大きな課題である。
世界的には大腿骨近位部骨折の発生数は年々増加しているが、一部の国では積極的な骨量測定と薬物治療の実施により新規骨折発生率が減少している。我が国においては、一九八七年以来五年ごとに大腿骨近位部骨折の全国調査が実施されているが、この二〇年間で発生数は二・八倍に増加し、二〇〇七年には約十五万人となっている。近年骨折発生率に減少傾向が見えており、二〇一二年の全国調査結果が注目されている。
骨折は連鎖することが知られており、一か所骨折を生じると新たに骨折する危険性が約二倍高まる。既存骨折数が増えるほど新規骨折の危険性は増加し、三個以上既存椎体骨折があると新規椎体骨折を生じる危険性は九倍以上に高まる。したがって骨折を起こす前に骨粗鬆症を発見し、治療を行い骨折させないことが望ましいが、現実的には骨折を契機に骨粗鬆症が発見されることが大部分である。更に、骨折で受診した患者さんに対して骨粗鬆症治療薬が処方される割合が低いことが世界的に問題となっている。ちなみに日本の13大学のデータでは、大腿骨近位部骨折の術後に骨粗鬆症の治療薬が処方された割合は約二〇%に過ぎない。IOF(国際骨粗鬆症財団)も“Stop at One”のスローガンを掲げて骨折の連鎖を食い止めるための啓発活動を行っており、(骨折で)見つかった骨粗鬆症患者を放置しないように呼びかけている。
最近は強力な薬剤が多数開発され、骨折発生を五〇%から八〇%抑制することも可能となっている。しかしながら薬剤が十分な効果を発揮するためには、少なくとも一年半以上、定められた投与量の七割以上摂取しないと目的の効果は得られないといわれている。種々の調査によれば、治療継続率は概ね一年間で五〇%程度とされており、患者さんが治療内容を十分理解し納得することが治療継続のためには重要とされている。
ビスホスホネートの一種であるゾレドロン酸が生存率を改善するという報告があり、骨粗鬆症治療がQOLやADLの改善にとどまらず生命予後の改善まで期待できるようになっており、骨粗鬆症に対する適切な予防と治療が望まれる。
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