平成25年10月26日
「HPV感染とHPVワクチン」
公益財団法人天理よろづ相談所病院 産婦人科部長 林 道治先生
 


  ハラルド・ツア・ハウゼン(独)が一九八〇年代子宮頸ガン組織からヒトパピローマウイルス(以下HPV)の16型と18型を相次いで発見し、これが子宮頸ガンの原因と提唱した。しかし当初はガンの発症は単純なものでなく、多くの要因が関与するとして否定的な意見も少なくなかった。その後の研究で子宮頸ガンの組織にはHPVがほとんど証明され、ガン発症の原因として認知されるようになった。彼はこの功績で二〇〇八年ノーベル医学賞を受賞した。
 子宮頸ガンの原因がHPVであることが認知されると、当然その予防ワクチンでガンの発症も予防できると考えられHPVワクチンが推奨されるようになった。
 HPVは一〇〇以上の型があり、このうち発ガンと密接に関連しているハイリスク型は16・18・31・33などで特に日本では16型と18型で約七〇%を占めている。つまりこの二つの型の感染を予防すれば子宮頸ガンの発症が激減することが予想できる。実際、欧米ではこのワクチンを思春期の早い時期に半強制的に投与したところ若年者の子宮頸ガンの新規発症は激減した。HPVのハイリスク型は子宮頸ガンのみならず膣ガン・外陰ガン・陰茎ガン・肛門ガンの原因としても大きく関与していることもわかってきた。
 HPVは他に発ガンと関連しない6型や11型のローリスク型も多く、これはコンジローマや再発性呼吸器乳頭症の原因になり、いずれも良性ではあるものの摘出手術を反復しなければならないことも多い。
 現在日本では二種のHPVワクチンが認可されていて16・18に対する2価の「サーバリスク」と16・18・6・11に対する4価の「ガーダシル」がある。いずれもガンの発症を減少させる効果に優劣はなくローリスク型に対する予防効果も併せ持つ4価ワクチンが若干評価が高いようである。ただ、いずれのワクチンも注射痛はかなり強く、稀ではあるが注射時の失神などの報告もあり、行政は定期接種としての積極的な推奨を一時的に自己選択としていて注意が必要である。他にもっと多くの予防効果を期待できる多価ワクチンや注射痛の改善されたものも開発中である。サーバリスクは初回投与後一ヵ月後と六ヶ月後。ガーダシルは初回投与後二ヵ月後と六ヶ月後のいずれも計三回の投与が必要である。この三回の投与で理論的には終生免疫が確保されることとされている。
 子宮頸ガンの発症はそれほど増加しているわけではないが二〇歳〜三〇歳の若年層に限っては急増していて、晩婚化・少子化とあいまって妊娠可能性の喪失が社会問題となっていて対応を迫られている。
 他のガンでは数o程度の初期ガンを発見することは極めて困難であるが子宮頸ガンは1o以下の顕微鏡的なレベルのガンや前ガン状態でも簡単に発見できる。性体験前にHPVワクチンを投与し、成人後は定期的に子宮頸ガン検診を受ければ子宮頸ガンはほぼ撲滅されるはずである。



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