平成27年9月26日
「気管支喘息の実践的診断と治療」
近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科   佐野 博幸先生
 

 気管支喘息は好酸球性気道炎症と可逆的気道狭窄を特徴とする疾患である。このような特徴を有することが分かっていながらも、気管支喘息の診断には定まった診断基準はなく、その目安として@喘息に基づく特徴的な症状、A可逆性の気流制限、B気道の過敏性亢進、Cアトピー素因の存在、D喀痰中の好酸球等の気道炎症の存在、E喘息に類似した症状を示す疾患の除外の6項目を参考にして総合的に判断することが喘息予防・管理ガイドライン2015に定められている。この意味するところは、ひとつの検査だけで喘息を必ず診断できるツールはなく、いずれの検査も喘息のタイプや状態によって陽性にならないことがしばしばあるという意味が込められている。したがって、専門施設でしか行わないような気道過敏性試験や気道可逆性試験などを行っても必ずしも喘息の確定診断や除外ができるわけではないので、common diseaseである気管支喘息の日常臨床ではこのような煩雑な検査を意識しすぎる必要はない。一般には、喘息の診断は発作性の症状が繰り返し出現することや、日内変動があること、アレルギーの既往があること、また、理学所見で喘鳴を聴取することなどから推測し、吸入ステロイド薬(ICS)を使用して二週間程度で効果があることを確認して診断されることが多く、概ねこの診断的治療で問題はない。ただし、初診時に肺がんや肺炎などを鑑別すべく胸部X線を行うことや、ICSの効果が十分に認められない場合には精密検査の必要性や、専門医に紹介することに留意が必要である。
 喘息の診断を行った後は、その症状の頻度や強さ、あるいは肺機能から重症度を推定し、重症度に適合した段階的治療を行うが、軽症から重症までのいずれの重症度でも長期管理薬の中心はICSである。軽症持続型喘息に適合する治療ステップ2以上ではICSの併用薬に長時間作用性β2刺激薬(LABA)が喘息予防・管理ガイドライン2015に推奨され、近年では、ICS単剤よりもICS/LABA配合薬の処方率が増加している。これは、ICS単剤とICS/LABA配合薬での治療を比較した場合、肺機能の改善やコントロール良好に達する患者の割合は、ICS/LABA配合薬使用群の方が優れていることが示されたことによる。ICS/LABA配合薬は優れた薬剤ではあるが、治療開始時に重症度に適合したICSの投与量を判定することに注意が必要であり、治療開始後には喘息が適切にコントロールされているかの評価を行うことによって適切に増減しなければならない。
 一方、近年の人口の高齢化に伴い、気管支喘息においても高齢者喘息の割合が増加している。高齢者喘息の特徴としては難治性喘息の割合が高く、若年者とは異なる病態が存在すると考えられる。これに関する最近の話題としては、高齢者では喘息とCOPDが併存したオーバーラップ症候群(asthma-COPD overlap syndrome:ACOS)が多く存在し、この病態を有する患者は増悪の頻度や重症化の割合が高く、QOLや予後の悪化が指摘され、近年、注目を集めている。そこで二〇一四年、喘息の国際ガイドラインであるGlobal initiative for asthma(GINA)とCOPDの国際ガイドラインであるGlobal initiative for chronic obstructive lung disease(GOLD)からACOSの診断や治療についての共同提言が示されている。本邦におけるACOSの調査として、我々は六十五歳以上の高齢者喘息一六五人におけるCOPDの合併率を検討したところ、高齢者喘息の約五〇%に肺気腫を伴うACOSが認められ、ACOSの予測因子としては、10pack-Year以上の喫煙歴と%predictiveFEV1<70%がリスクであった。ACOSの治療は、第一選択薬は吸入ステロイド薬であり、これに適宜、気管支拡張薬である長時間作用型β刺激薬や長時間作用型抗コリン薬を併用することが推奨されている。




 

 







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