平成27年11月28日
「心原性脳塞栓症の予防と急性期治療―新時代の幕明け―」
国立循環器病研究センター 脳神経内科 医長   山上 宏先生
 

心原性脳塞栓症は急性期脳卒中の約二〇%を占め、発症時の神経症状が重篤で、退院時の寝たきりまたは死亡例が三割を越える。さらに再発率が五年間に約二五%と多いため、五年生存率は約四〇%と極めて予後不良の病型である。
 心原性脳塞栓症の最大の原因は心房細動であり、脳卒中発症予防としてワルファリンによる抗凝固療法の有効性が確立しているが、副作用としての出血、特に頭蓋内出血の恐れから、適切な抗凝固療法が行われていないのが実情である。すなわち、心房細動患者における脳卒中予防では、虚血性および出血性の療法のイベントを同時に抑制する必要がある。
 非ビタミンK拮抗経口凝固薬(NOAC)は、脳卒中/全身性塞栓症予防効果がワルファリンと同等またはそれ以上で、頭蓋内出血の発現頻度は有意に少ない。日本人を含むアジア人種では疫学的に頭蓋内出血の頻度が多く、ワルファリン服用による脳出血のリスクも高いため、より安全な抗凝固療法としてNOACを用いるメリットが大きいと考えられる。
 また、日常臨床において抗血小板薬を抗凝固薬が併用されることが多いが、これらの併用は明らかに出血性合併症のリスクを増加させる一方で、心血管疾患発症の抑制効果は不明である。抗凝固薬はトロンビン産生を抑制することで、トロンビンによる血小板活性化を減弱させるため、抗血小板作用を有すると考えられる。したがって、心房細動とアテローム血栓症を合併する場合でも、急性期以外は抗凝固療法を優先し、抗血小板薬の併用は出来るだけ避けるべきであろう。
 脳梗塞を発症した場合には、急性期治療による後遺症の軽減が重要となる。経静脈的な組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)投与による血栓溶解療法は、発症から治療開始までの時間が早ければ早いほど日常生活自立可能な患者の割合が高くなる。さらに、二〇一五年には、内頚動脈や中大脳動脈主幹部の閉塞による急性期脳梗塞に対して、ステント型血栓回収機器を用いた血管内治療を行うことで、後遺症が明らかに減少することが示された。血管内治療においても、発症から再開通までの時間が早いほど機能的転帰が改善することが示されている。
 したがって、全ての心房細動患者に対しては、適切な抗凝固療法による予防を行った上で、脳卒中の症状(突然の片麻痺、言語障害など)を啓発し、万が一症状が出現した時はただちに救急車を呼ぶように伝えておくことが重要である。

 







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