消化器疾患フォローの要点〜患者さんを失わないために
日本人の死因としては、心血管疾患一五%、脳神経疾患一二〜一三%などが挙げられるが、特に多いのが消化器疾患三二〜三三%である。大きく分類して消化管出血や穿孔、感染症などの「非腫瘍性疾患」と、癌などの「腫瘍性疾患」があり、特に悪性新生物による死亡率は年々増加しているため注意が必要である。主な部位別癌死亡数を見ると男女差はあるものの胃癌は減少傾向だが依然として多く、肺癌に次いで患者数が多い事が報告されている。その他の大腸や肝臓などの消化管の癌も患者数は多い。
本日は、膵臓癌、胆道癌、大腸癌、胃癌、肝臓癌を見逃さないためのフォローについて順に紹介する。
≪膵臓癌・・増え続ける膵臓癌。早期発見のキーワードは「嚢胞」≫
近年増加が著しく、膵癌と診断された頃には約六〇%の人が遠位リンパ節や臓器に転移を認めるステージWbになってしまっており、予後が良くない癌のひとつである。
膵癌のリスクとしては、糖尿病患者で二倍(特に新規診断症例)・BMI≧30kg/uの男性で三・五倍、親子兄弟に膵癌がいる六・八倍、慢性膵炎患者は一三倍、膵嚢胞患者はリスク二二・五倍である。膵嚢胞はIPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)が圧倒的に多い。
IPMNは膵管内に乳頭状に増殖する膵腫瘍であり、粘液を産生することで嚢胞状となっている。膵IPMNを有する患者の膵癌の発癌頻度は、膵IPMNの由来癌、併存癌の六四二例のIPMNフォローで一七例の浸潤癌が見られた(平均経過観察四・八年で、年率〇・六%)
≪胆道癌・・普通の胆石は症状が出てからでOK。しかし+αがある人は要注意≫
胆道拡張症・合流異常が基盤にある場合が多い。胆道拡張症・合流異常では、胆道癌の危険率は通常の一、〇〇〇〜三、〇〇〇倍、胆管拡張型の膵・胆管合流異常に対しては予防的胆嚢摘出と肝外胆管切除、胆管非拡張型膵・胆管合流異常に対しては予防的胆嚢摘出が必要である。胆石症の推定患者数は一、〇〇〇万人以上で七〇歳以上では一五%で見られる。八〇%が無症候性であるが無症候性胆石は年率二%で有症状となり、有症状胆石の症状再発率は年間二〇〜四〇%である。胆嚢結石症と胆嚢癌との直接的因果関係は証明されておらず、無症候性胆石症に対する予防的な胆嚢摘出術の意義はない。胆嚢結石と診断されてからの期間が長い場合や結石のサイズが大きく結石数も多い場合、結石が胆嚢内に充満している場合は、個々の症例への十分なインフォームドコンセントを行った上で胆嚢摘出術が相対的適応となる。
≪大腸癌・・早い時点で一度は大腸内視鏡検査を勧め、その後のリスクを見積もる≫
便潜血検診を行うことにより死亡率が低下する。ただし、便潜血検査で陽性になるのは、検査を受けた人の約七%である。便潜血陽性の方から大腸癌が見つかる確率は二〜三%程度で、治療が必要なポリープでも約二〇%ほど。残り約八〇%では病的な異常はないのが現状。大腸腺腫の担癌率はサイズや形態によって異なり、TTc、TTa+TTc、TTa+pseudodepressionでは径六〜一〇oでも担癌率は五〇%を超える。大腸polypectomyは生命予後の改善に繋がるため癌化を防ぐためにも実施を推奨。
≪食道癌・・お酒を飲んで赤くなる人がいたら、内視鏡検診を勧める≫
食道癌のリスクファクターは、アルコール多飲(flusher)、喫煙、果物・野菜の摂取不足、バレット食道(欧米)が挙げられる。「食道癌とflusher」・・アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒド(発癌物質)を分解するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の遺伝子多型が、食道扁平上皮癌の発生に関与している。ALDH2不活性型はモンゴロイドの中で突然変異的に出現増加し、日本人、中国人では四〇〜四四%に見られるが、白人や黒人には殆どいない。「食道癌と喫煙」・・喫煙は口腔、鼻腔、咽喉頭、食道の発癌に強く関与し、扁平上皮癌・腺癌ともに危険因子となる。食道癌の生存率はステージTでは五年で八〇%、ステージUでは五年で五〇%、一方ステージIVbでは3年ほどで死亡に至る。食道癌に対する化学放射線療法は、放射線単独療法と比べ有意に生存率を向上させることが証明されており、非外科的治療を行う場合の標準的な治療となっている。
≪胃癌・・胃癌検診、まずは内視鏡。ピロリ胃炎があれば除菌≫
胃癌検診は死亡率を下げる効果が科学的に証明されていることから、厚生労働省より推奨されている(1)胃透視・・四〇歳以上、一年に一回 (2)胃内視鏡・・五〇歳以上、二年に一回。胃癌の初発はH.pylori除菌で予防でき、WHOからも除菌が推奨されている。また、若い人ほど除菌による癌抑制率が高い。一次除菌は除菌率八割程度であるが、新規の酸分泌抑制薬のレジメンでは九〇%以上である。除菌失敗の要因のひとつとしてクラリスロマイシンの耐性株があるが、新規の酸分泌抑制薬はクラリスロマイシンの耐性株を有する場合の除菌率は八〇%以上である。H.pyloriが増殖をするpH六・〇〜八・〇の状態が最も抗生剤の効果が得られるため、酸分泌をしっかり抑制することで除菌率は高まる、一方、H.pylori陰性の胃癌は胃癌全体の一%程度存在との報告されており、H.pylori陰性胃癌の三分の一は低分化型癌、分化型の半数以上は胃底腺型胃癌である。
≪肝臓癌・・肝癌リスクのある方は、血液検査だけでなくUSの定期フォローが必須≫
肝臓癌の原因は、C型肝炎ウイルスが最も多く六三・五%、次いでB型肝炎ウイルス一六・九%、他にNASHやアルコール性肝障害などがある。C型肝炎の場合、HCV感染後に急性肝炎が起こり、その内六〇〜八〇%が慢性肝炎に移行する。慢性肝炎が進行し肝硬変となり、肝硬変からは年率六〜八%が肝癌となる。B型肝炎の場合、乳幼児の感染では九〇%以上は無症候性のキャリアとなる。免疫機能の活発化により肝炎を発症するが、この肝炎がおさまらない場合には、慢性肝炎から肝硬変、肝癌へ移行する。肝癌の発生リスクは、B型肝炎ウイルスの持続感染で二二三倍、C型肝炎ウイルスの持続感染で約一、〇〇〇倍(繊維化が進行するほどリスクは増加)である。アルコール性肝障害では正確なリスクのデータはないが、NAFLDでは2型糖尿病は二〜四倍のリスクと報告されている。肝癌の超高危険度群(HVC、HBV持続感染者)はもちろんのこと、高危険度群にはアルコール性肝硬変、糖尿病、肥満、NAFLDも挙げられており、日頃の診療のなかでもリスクを考慮してもらうことが必要である。
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