平成28年8月6日
「COPDと気管支喘息―病態と治療の最前線」
奈良県立医科大学 内科学第二講座・栄養管理部 病院教授 吉川 雅則先生
 

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)はタバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することによって生じた肺の炎症性疾患である。末梢気道病変と気腫性病変の両者に基づく気流閉塞は正常に復することがないと定義されている。臨床的には徐々に生じる労作時呼吸困難、咳、痰を特徴とする。一方、気管支喘息の基本病態は慢性の好酸球性気道炎症と気道過敏性であり、可逆的気道狭窄を特徴とし、発作性の呼吸困難、喘鳴、咳などの症状を呈する。本質的にはCOPDと気管支喘息は異なる疾患として理解すべきであり、薬物療法においてCOPDは長時間作用性の吸入抗コリン薬やβ2刺激薬などの気管支拡張療法が主体となり、気管支喘息では吸入ステロイドによる抗炎症治療が基本となる。近年の吸入療法における話題は、COPDにおいては吸入ステロイドを併用すべき病態をいかに判断するか、気管支喘息では抗コリン薬が保険適応とされたことである。
 COPD、気管支喘息ともに病態の多様性が重視されている。COPDでは画像所見、一秒量の経年変化、併存症の有無、増悪頻度などの観点から多様性が論じられている。また、気管支喘息では臨床的特徴からみたフェノタイプと病態生理メカニズムに基づくエンドタイプによる分類が提唱されている。特に気管支喘息におけるエンドタイプは吸入ステロイドの反応性や抗IL-5抗体、抗IL-13抗体、抗IgE抗体などの生物学的製剤の有効性予測の根拠となりうる。近年、喘息とCOPDの臨床的症候を併せ持つasthma-COPD overlap syndrome (ACOS)が注目されている。ACOSは高頻度の増悪や予後の悪さから治療上の重要な問題となっている。さらに、気腫型COPDでは気管支内バルブやコイルを用いた気管支鏡下肺容量減少術、重症喘息に対しては高周波電流を用いた気管支壁の加熱により気道平滑筋の減少をめざす気管支サーモプラスティーも臨床応用されている。以上の様に、COPD、気管支喘息ともに多様性に応じた個別化治療の時代を迎えつつある。



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