平成28年9月24日
「現場で使う最近の糖尿病薬」
奈良県立医科大学 糖尿病学講座 岡田 定規先生
 

 糖尿病の血糖コントロール目標は、糖尿病性合併症(網膜症・腎症・神経障害)予防の観点からHbA1c七・〇%未満とされている。しかしながら、高齢者などにおいて糖尿病治療の強化が低血糖などの副作用を増やし、その対処が難しい場合は八・〇%未満とする目標が掲げられている。平成二十八年五月に日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同で高齢者糖尿病における血糖コントロール目標を策定し、認知機能とADL、併存疾患を用いて患者の健康状態を3カテゴリーに分け、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、スルホニル尿素薬、グリニド薬など)の使用の有無に分けて目標とされるHbA1c値を定めた。特筆すべきことは、インスリン製剤やスルホニルウレア薬を使用した際に、目標HbA1c値に下限値が設けられたことである。
 さて、HbA1c値は過去二ヶ月程度の平均血糖値を示す有益な指標であるが、その数値はあくまでも血糖値の平均を示し、血糖変動は加味されない。すなわち、高血糖・低血糖を繰り返す血糖変動が大きい患者においても、血糖変動が小さい患者においても、平均血糖値が等しければ理論上HbA1c値は等しくなる。血糖変動は食後高血糖と食前低血糖から構成されるが、低血糖を回避するという観点だけでなく、血糖変動が心血管イベントや動脈硬化のリスクとなる観点からも是正が望ましい、特に、これらの血糖変動が糖尿病薬によっても生じうることを考えると、HbA1cを目標域に調整するだけでなく血糖変動を小さくする治療が求められる。
 血糖変動を小さくする糖尿病薬のひとつとしてGLP-1受容体作動薬が挙げられる。GLP-1受容体作動薬はインクレチン(腸管から分泌されインスリン分泌を促進するホルモン)作用を有する糖尿病薬であり、膵臓においてグルコース応答性のインスリン分泌を促進するだけでなく、グルカゴン分泌の抑制作用を介して血糖降下作用を発揮する。また胃内容排出遅延作用を有し、食欲抑制に働く一方で消化器症状の副作用の原因ともなっている。これらの作用によって、GLP-1受容体作動薬は食後高血糖の是正と食前低血糖を防ぎ(※食前血糖値は低下させるが、単独投与において低血糖のリスクは低い)。血糖変動を小さくする効果



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