平成28年11月26日
「尿酸と果糖と人間の進化」
奈良県立医科大学 産学官連携推進センター 教授 仲川 孝彦先生
  尿酸についての報告は二〇〇〇年頃から報告が増えてきているが、高尿酸血症は腎障害や高血圧の結果として生じているのか、またはマーカーなのか未だに解明されていない
 しかし臨床で尿酸は高血圧、肥満、腎障害、メタボリックシンドローム、インスリン抵抗性と相関を示している。
 尿酸がどのような影響を及ぼしているのかを解明するために、動物モデルで検討を行った。高尿酸血症モデルラットを用いて検証したところ、ラットにおいて尿酸が高血圧とアルブミン尿の原因となっていることがわかった。
 上記結果の機序を解明するために、CKDラットを作成し検討を行ったところ、血管障害が起こっていることが判明した。血管障害が起こる要因としては、血管の内皮細胞に直接、尿酸が作用していた。
 肝細胞においては尿酸が脂肪合成を促進させていた。脂肪細胞の炎症が尿酸によって起こることも確認した。
 尿酸トランスポーターであるURAT1は様々な臓器に存在しており、URAT1を介して取り込まれた尿酸は血管障害、脂肪肝、インスリン抵抗性の低下と関連があることを実験によって確認した。
 
 ではなぜ、尿酸は存在するのか?
 人類は進化の過程の中で尿酸を獲得したと考えられている。
 霊長類の尿酸値を測定することで、人類の進化の過程における尿酸の役割について検討を行ったところ、あるタイミングからウリカーゼの突然変異が起きたことが推測された。
 地球環境の変化による食料不足に対応するため、人類の祖先は尿酸値を獲得したと思われる。当時は血圧の維持、糖の消費抑制、エネルギーの貯蓄等の役割を担っていたが、現代では高尿酸血症によって、高血圧、インスリン抵抗性、脂肪肝の原因になっていることが推測された。
  
 二〇世紀に入ってから尿酸値は上昇し続けているが、地球上で最も原始的な生活をしている部族の尿酸値を調べたところ、その値は二・九r/dlであった。また、人類の進化の過程の中で霊長類が獲得した尿酸値は三・〇r/dlだった。
 尿酸がこれまでどのような貢献をしてきたか、野生動物から検討を行うと、巣篭り、冬眠、渡り鳥の長期移動、肥満のスケジュール化など、エネルギー代謝に関連をしていることが示された。

 近代人における尿酸の上昇は何が原因なのか?
 我々は食事に原因があると考える。
 しかし、プリン体の多いものを多く食べるようになったのではなく、フルクトース、特に異性化糖が原因だと考えている。我々の口には、「果糖ブドウ糖液糖」という形で入り、ソフトドリンクに多く含まれている。実際にソフトドリンクの消費量は一〇年間で増加しており、これが原因のひとつとなって尿酸値が上昇しているのではないかと考えている。またヨーグルトやめんつゆ、とりめしの素、ケチャップ、納豆など、あらゆる食品に添加されている。
 検討を行ったところ、フルクトース代謝の結果尿酸が産生されており、フルクトースによる中性脂肪の貯蓄には尿酸が関与していた。

 尿酸は人類の進化の過程でウリカーゼの突然変異が生じ上昇したと考えている。人類には尿酸が必要だったと考えられ、その時期は新生代氷河期だと推測する。
 この時期の食糧不足を乗り越えるため生命機能の維持に尿酸が必要であったと考えている。一方で、現代ではフルクトースの過剰摂取などによって、高尿酸血症が生じ、様々な病気の原因のひとつになっていると考えられる。




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