平成29年5月27日
「気管支喘息・COPDにおける急性憎悪時の
             対応と吸入指導勉強会について」
高井病院 呼吸器内科 小林 厚先生
 高井病院呼吸器内科では、以下に記す一〇点を特徴に日常診療を行っている。@難渋する誤嚥性肺炎では、嚥下を電極刺激で訓練するリハビリテーション。A胸部CT画像データから、気管支を3D合成する気管支鏡ナビゲーションシステム。B肺癌に対する分子標的薬を含む各種抗癌剤。C免疫チェックポント阻害剤による免疫療法。D悪性胸水、難治性気胸などに対するタルク製剤での胸膜癒着術。E早期肺癌に対する定位放射線療法(SRT)。F脳転移に対するガンマナイフ。G呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定器による(咳)喘息の診断。H重症喘息に対する抗IgE抗体、抗IL-5抗体の生物学的製剤。I現在建設中の陽子線治療である。
(咳)喘息の診断には呼気NO測定が有用で22ppbをカットオフとしている。実際に咳喘息は典型的喘息と同様、気管支粘膜組織における好酸球の増加が証明されている。治療には吸入ステロイドが有効である。気管支喘息治療の主体は吸入療法で、基本的に吸入ステロイド、長時間作用型β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬の順に用いる。喘息の急性増悪の要因はライノウィルスをはじめとする気道感染が多く、肺炎球菌をカバーする抗菌薬(A ‥ Antibiotics)、吸入ステロイド+長時間作用型β2刺激薬頓用などの気管支拡張薬(B ‥ Bronchodilators)、抗炎症目的でのステロイド薬(C‥Corticosteroids)のABCアプローチが治療の中心となる。吸入薬に関しては、中枢のみならず末梢気道にも到達できる薬剤の粒子径も重要である。またストレスも喘息発作の要因であり、日頃からの生活指導が望まれる。
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、近年でも年間約一万五千人と、喘息のほぼ10倍の死亡数があり、早期発見と適切な管理が必要とされる。肺気腫は胸部CT,肺年齢を含む呼吸機能検査で診断でき、パルスオキシメーターによる重症度の評価もある。治療の主体は吸入薬にかわりはないが、概して喘息はほぼ逆に長時間作用型抗コリン薬、長時間作用型β2刺激薬、吸入ステロイドの順に用いる。治療の目標はあくまでも進行予防であり、非薬物療法としての定期的な運動、十分な栄養摂取を日頃から心がける。難治例では肺容量減少術(LVRS)があるが慎重な適応判断を要する。急性増悪の要因としては、ウィルスの他に緑膿菌を含む細菌感染があり、ニューキノロン系などの抗菌薬(A)、テオフィリン製剤などの気管支拡張薬(B)、一定期間ステロイド剤(C)で対応する。また心不全による増悪も念頭に置いておく。喘息とCOPDを合併したasthma-COPD overlap syndrome(ACOS)では、前述のABCアプローチに加え、難治例は生物学的製剤を適切に用いれば、速やかなステロイド漸減につながることを筆者も経験している。
 吸入療法に関して、喘息ガイドライン二〇一五でも吸入手技の再指導が推奨されており、薬剤師を対象に全国各地で勉強会が開催されている。当院でも平成二十七年二月から高井病院吸入指導勉強会を平成二十九年二月までに計五回開催した。服薬情報等提供料の算定を背景に、独自に吸入指導依頼書・報告書を作成し、まずは門前薬局と医薬連携を始めた。吸入指導方法は北野病院主催の吸入指導ネットワークの内容を参照した。当初勉強会の指導者は各社MRにお願いしていたが、参加者が次からは指導役となるサイクルができ、第四回以降は医師・薬剤師間で指導役を担った。指導者には吸入指導認定証、マイスターシール・バッチを授与しモチベーションとした。同様の吸入指導勉強会を、参加者自ら自主的に自施設で開催していただき、奈良県内で自然増殖的拡がりに到っており、さらなる吸入指導の普及に貢献して行きたい。

 

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