平成29年11月25日 |
「地域で取り組む不整脈診療」 |
天理よろづ相談所病院 循環器内科 張田 健志先生 |
日本では現在七十万人以上が心房細動に罹患していると考えられ、今後人口の高齢化に伴い、二〇四〇年には患者数が一〇〇万人を突破すると予測されています。心房細動は出現後すぐに生命に関わるような重篤な不整脈ではありませんが、脳梗塞や心不全の重大な危険因子であることから適切な診断・治療が重要な疾患です。 心房細動に対する治療の考え方として、抗凝固薬により脳血栓塞栓発症を予防することが必須であることに加え、不整脈そのものに対する治療方針が大きく二つに分かれます。一つは心房細動を可能な限り少なくする治療、もう一つは心房細動を受け入れて管理する方法です。 前者の心房細動を可能な限り少なくする治療方針には、「薬物療法」と「カテーテル治療(カテーテルアブレーション)」があり、(rhythm control)、後者は心房細動を止めずに心拍数を減らす薬を使って治療すること(rate control)を意味します。 現在までに行われてきたAFFIRM試験をはじめとする前向き無作為ランダム化試験では右記二つの治療方針で生命予後に大きな違いがないことが示されています。しかしそれらの試験におけるrhythm controlは「薬物療法」が主体の結果であり、現在行われるrhythm control治療の主体である「カテーテル治療」による結果ではない点で解釈に注意が必要です。 現在の心房細動に対する「カテーテル治療」は三次元マッピングシステム、コンタクトフォースカテーテル、クライオバルーンカテーテルの出現により、非常に成熟した安全性の高い治療となっており、「薬物療法」でのデメリットを回避できるより安全な治療と考えられます。 一方、心房細動自体が短期的には予後の良い疾患であるため、「カテーテル治療」により予後が改善するのかどうか、という疑問に答えることは非常に難しい側面があります。「カテーテル治療」後の生命予後や脳梗塞の発症に関し、後ろ向き解析ではあるものの良い成績が報告されていますが、今後の長期経過観察研究や前向きランダム化試験の結果が待たれるところです。 現在当科では、比較的若年な方(これから先の人生が長い方)や、前向き試験での予後改善効果が示されている心機能低下や心不全を伴う患者様に対しては持続性心房細動を含め、「カテーテル治療」の良い適応と考え、積極的にrhythm controlを行っています。 加えて心房細動には加齢のみならず、肥満、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群といったことが発症やrhythm control治療後の再発に大きく関わる全身性疾患の側面があります。 体重管理、禁煙、糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群への積極的介入といったリスクファクター管理により心房細動の再発が抑制されることが研究から示されており、地域の先生方による長期的な加療が非常に重要と考えております。今後、病診・病病連携をさらに深め、不整脈を抱える患者様の利益につながる加療に貢献できれば幸いです。 診断、検査や治療の適応に迷われることがありましたら、是非お気軽にご相談下さい。今後ともよろしくお願い申し上げます。 |
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