令和2年2月1日 |
「肺癌治療2020 up to date」 |
天理よろづ相談所病院 呼吸器内科・化学療法室 安田 武洋先生 |
切除不能肺癌の治療においては、長らく殺細胞性抗癌剤のみがその治療を担ってきました。二〇〇二年には経口分子標的薬としてゲフィチニブが使用可能となり、肺癌治療の新時代が幕を開けました。ゲフィチニブは発売当初、致命的になりうる薬剤性肺障害が社会問題となりましたが、一方では奏功例においてはこれまでの殺細胞性抗癌剤治療では経験したことのない、短期間で強力な抗腫瘍効果を発揮する魅力的なものでした。その後、EGFR遺伝子変異の検査が可能となったことや、薬剤性肺障害のリスク因子の解析や副作用のマネージメント方法が確立したことにより、より安全に、かつ奏功が期待できる適切な患者さんに分子標的薬の治療を届けることが可能となっていきました。 その後もEML4-ALK融合遺伝子転座、ROS1遺伝子転座、BRAF遺伝子変異といったドライバー遺伝子に対しての各キナーゼ阻害薬の開発が進み、precision medicineを目指した治療選択肢が増加してきました。 これらのドライバー遺伝子変異が陰性の患者さんにはキナーゼ阻害薬の恩恵が及ばなかったのですが、本庶先生の研究により薬物療法の第三軸として免疫チェックポイント阻害薬が開発されました。 抗PD-1モノクローナル抗体であるニボルマブが、二〇一四年に悪性黒色腫で承認された後、引き続き二〇一五年には非小細胞肺癌でも承認されました。PD-L1が高発現な症例では奏効率が高いものの、未だに有効な症例を特定するバイオマーカーが不十分なため、奏効率自体はキナーゼ阻害薬のように高いものではありません。しかし、奏功例は二年を超えて奏功しつづける例も多く、特徴的な有用性が示されました。一方、これまでの治療の際とは異なる免疫関連の副作用(irAE)も問題となり、適応癌腫のひろがりとともに、各専門科・各職種間連携による副作用対策のニーズも高まっています。肺癌治療においては、当初2nd line以降での承認から、PD-L1陽性例においては1st lineへの適応拡大がすすみ、さらには一年前より1st lineでの殺細胞性抗癌剤との併用療法にまで適応が拡大されることとなりました。現在は多くの患者さんに免疫療法が行われるようになっています。 また、V期切除不能局所進行肺癌には同時併用の放射線化学療法により内科的に根治を目指すことが可能な症例が含まれていました。その治療法に大きな変化がない時期が続きましたが、二〇一八年に免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブが放射線化学療法施行後の維持療法で承認されました。デュルバルマブの維持療法を行うことにより、無増悪生存率(PFS)、全生存率(OS)ともに改善を認め現在標準療法となりました。 今回は、現時点での非小細胞肺癌の治療についてガイドラインをもとに概説し、当院でのirAE対策チームの試みについてもご報告する予定としております。 |
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