令和2年8月8日
「濾胞性リンパ腫の診断と治療」        
天理よろづ相談所病院 血液内科 部長 大野 仁嗣先生
 (悪性リンパ腫の疫学)
悪性リンパ腫の罹患率は年々増加傾向にあり、奈良県では年間約三〇〇名の患者が発生すると推定される。日本における悪性リンパ腫の各病型の割合はB細胞性リンパ腫が七〇%以上を占め、そのうちびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)が四五%と最も多く、次いで濾胞性リンパ腫(FL)が一三・五%を占める。

(FLの病態) 
悪性リンパ腫は疾患の進行速度によって低悪性度、中悪性度、高悪性度に分類される。FLは低悪性度に分類され、半年〜年単位で進行する疾患である。診断にはリンパ節生検を実施する。リンパ節は正常の構造がなくなり、濾胞が充満する。免疫染色ではリンパ腫細胞はCD20陽性、CD10陽性、BCL2陽性である。しばしば骨髄に浸潤する。大型細胞(centroblast)の割合によってgrade1、2、3a、3bに分類するが、3bは中悪性度リンパ腫とみなすことが多い。フローサイトメトリーは悪性リンパ腫の補助診断として極めて有用である。FLでは、CD19+、CD20+、CD5‐、CD10+、HLA‐DR+、表面免疫グロブリン陽性で、この結果から病理診断を待たずにFLの推定が可能である。GバンディングやFISHで染色体異常を検査することも重要である。FLでは、九〇%以上の症例でt(14;18)(q32,q21)転座とBCL2-IGH融合シグナルを認める。病変の広がりはPET検査を中心とした画像検査で評価し、Ann Arbor分類に従って病期を決定する。FLIPI、FLIPI2スコアは五つの予後不良因子の有無によって低・中間・高リスクに分類する。GELF基準とBNLI基準は高腫瘍量と低腫瘍量に分類する基準である。これらの指標によってFL患者の無病生存と全生存を予測したり、経過観察にとどめるか治療を開始するかを判断したりする。経過観察にとどめる場合は、定期的な画像検査で病変の進行、憎悪を慎重にみていくことが最も重要である。

(FLの治療)
FLの治療に関わる薬剤として、細胞障害性抗腫瘍薬‥CHOP、CVP、トレアキシン(一般名ベンダムスチン‥B)、抗体医薬品‥リツキサン(R)、ガザイバ(GA)、免疫調整薬‥レナリドミド(LEN、再発難治例のみ)、治療補助薬‥ジーラスタ(G-CSF製剤)、抗ウイルス薬、ST合剤等があげられる。RとGAの違いについて、RはタイプT抗体、GAはタイプU抗体に分類され、作用機序面から考えると、GAではRと比較してADCC活性、ADCP活性、直接的な細胞死誘導活性が増強されている(CDC活性はRの方が強い)。治療薬の近年の主な臨床試験は、StiL試験、BRIGHT試験、PRIMA試験、GALLIUM試験、GADOLIN試験、AUGMENT試験、RELEVANCE試験があげられる。
StiL試験、BRIGHT試験では、R-CHOP療法と比較しBR療法でPFSの延長が認められた。安全性では、BR療法でCD4陽性T細胞の減少が遷延することがあるので、感染症対策として抗ヘルペス薬とST合剤の予防投与が必須となる。
PRIMA試験では、未治療FL症例にR維持療法まで実施するとPFSが有意に延長することが明らかになった。一方、長期成績では一〇年OSが約八〇%であった。この結果から、新規のFL患者に治療と予後を説明する際は、治療によって一〇年以上の生存が期待できると伝えている。
GALLIUM試験では、未治療FL症例においてGA+化学療法はR+化学療法よりもPFSを有意に延長することが示された。日本人のサブグループ解析では、好中球減少症発現率が高かったが、これは化学療法としてCHOP療法を併用した症例が多かったためと考えられる。一方、日本人の感染症の発現率は試験全体と同等であったことから、日本では他国と比較して十分な感染症予防対策を実施していると考えられる。GALLIUM試験を踏まえ、当院でGAを導入する際には、第一サイクルはインフュージョンリアクション(IR)、腫瘍崩壊症候群(TLS)を考慮して入院で実施している。CHOP療法を併用する場合は好中球減少症対策としてジーラスタをCHOPの翌日に投与する。治療経過中は、感染症対策としてアシクロビル/バラシクロビルとST合剤(±抗真菌剤)を投与する。また、GAまたはRを投与する際にはB型肝炎再活性化のリスクが高いことに留意する。さらに、リンパ球減少によるサイトメガロウイルス感染症にも注意が必要である。




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